新約聖書に登場する聖ヨセフはマリアの夫であり、イエスの養父。ナザレのヨセフとも呼ばれています。
ヨセフは旧約聖書のユダヤの王ダビデの末裔とされ、5人兄弟の中では一番信心深かったようです。職業は大工。エルサレムの大司祭の名でマリアと婚約をしましたが、彼女が結婚前に妊娠したことを知り、深く悩みます。マリアの為を思って、公表せずにひそかに縁を切ろうとしたヨセフ。しかし、彼の夢に天使が現れ、マリアが宿したのは神の子であると伝えます。ヨセフはその奇跡を尊び、結婚を果たしたのです。
その後、マリアと共に息子イエスを育てたヨセフですが、その他のエピソードはあまりなく、エジプトへの逃避行のお告げを天使より授かり、家族で逃げるという活躍が残されるくらいです。彼の死去に関する記述もありません。伝承によると西暦20~30年に死去したとされています。30年だとしたら、イエスの磔刑とほぼ同時期になりますね。ちなみにマリアは西暦41年頃とされているようです。
聖母マリアと比べると、あまりぱっとしない印象のヨセフですが、それでも多くの画家によって描かれています。今回は、主に二種類の聖ヨセフのお告げの絵画を紹介したいと思います。では、絵画13点をご覧ください。
「サン・ジョヴァンニ洗礼堂のモザイク画 13世紀」
岩山で「うーむ、マリアが姦通の罪をするなんて…」と
悩み寝ているヨセフの元へ、飛翔して登場する天使さん。
「彼女は無原罪の御宿りですよ!」と伝えています。
「 ヴァランタン・ド・ブーローニュ作 1624–26年」
現れた天使はマリアの受胎告知と同じ、ガブリエルとされています。
ガブリエルさん、マリアと同じタイミングでヨセフに伝えれば
彼は悩まなかったでしょうに。わざと試してみたのかしら…。
「フランスのロレーヌの画家作 1620年頃」
悩めるヨセフの背後に忍び寄る(?)、天使ガブリエル。
多くの画家はヨセフを初老の男性として描いています。
この作品だと、この先20年以上も生きるのか心配になります^^;
「ステファノ・マリア・レニャーニ作 1708年」
眠るヨセフの耳元に「聖母マリアは神の子を宿した…」と
囁く天使ガブリエル。美しい作品ですが、なんだか天使から
セクシーなオーラが感じられるような。
「フランスの工房の画家作 18世紀」
イエスにも似た若めのヨセフに告げる、妖精さんのような
天使ガブリエル。中世と近世の雰囲気が混じった、絶妙な
バランスの作品ですね。
「ダニエレ・クレピ作 1590年頃」
あれ、もう生まれてるじゃん!
と思いきや、ヨセフのお告げはもう一種類あり、「妻子を連れて
エジプトへ逃げよ」と天使に告げられたとされています。
勿論、彼はすぐにそれを実行したのでした。
「Bernardo Cavallino 作 1645年」
左手側で黒ずんで眠っているヨセフの元へ、険しめの天使さんが
舞い降ります。「早くエジプトへ逃げねば、ヘロデ王に殺される
ぞ!」と強く仰っているようです。マリア様の寝方が逞しい…。
「アントン・ラファエル・メングス作 1773-4年」
深く悩むヨセフに至近距離で説明する天使ガブリエル。
指を指しているところを見ると、エジプトのお告げの方かしら。
手前ののこぎりは、この絵画の主人公が大工を職業とする
ヨセフであることを鑑賞者に伝えています。
「フランシスコ・デ・エレーラ(子)作 1662年」
こちらもイエスによく似た感じのヨセフ。道端で眠る彼に、
神を象徴する鳩を指さし、お告げを示しています。
小さな天使さん達も大集合!
「ジョヴァンニ・バッティスタ・パッジの工房作 17世紀前半頃」
親戚の洗礼者ヨハネ、その母エリザベツも登場。
賑やかな聖ヨセフの夢ですね。起きている皆にではなく、
寝ているヨセフにわざわざ「逃げろ」と伝える天使様…。
「ヘラルト・セーヘルス作 1626-33年」
大所帯で現れた天使さん達。産着ですやすやと眠るイエスに
花冠を授け、ヨセフに天使が突撃です。この賑やかさなら、
エジプトへ避難しても安心です (ぇ
「ヴィセンテ・ロペス・ポルターニャ作 1805年」
イエスを抱っこして、親子仲良く眠るヨセフ。
天使さんが指さす先はエジプトなのかしら。
マリアさんはほっかむりをして、準備万端に見えますね^^;
「グイド・レーニ作 1635年」
父と子の触れ合いを描いた和やかな作品。神の子と言えど、
血の繋がりのないイエスを深く愛し、育てたヨセフ。
父の鑑ですね。右下にちっちゃく天使さんがいますね。
一説によると、ヨセフが西暦20~30年に没した際の年齢は49~59歳とされています。イエスが没したのは西暦30年と考えられているので、イエスが生まれた当時は20~30代だったのではないでしょうか。だとすると、ヨセフはうら若き男性になるはずですが…。そのような考えを無視し、画家たちはヨセフをほぼ老人として描いています。マリアと夫婦というより、親子みたいな年齢差として表されていますよね。
カトリックは聖母マリアの処女性を重要視しており、これには「マリアとの関係を持たせず、彼女の純潔さを守るため」という理由が隠されているとのこと。うら若き男性ではマリアと関係を持ってしまうから老人なら大丈夫だろう、という思想によりヨセフはこのような姿として描かれてしまったのです。
「マタイ福音書」と「マルコ福音書」によるとイエスの兄弟が多くいたとされ、プロテスタントの解釈ではヨセフとマリアの間に生まれた兄弟たちと考えられています。プロテスタントはヨセフを老人として見做していなかったようです。それに対し、マリアの処女性を信じるカトリックは「いとこなのではないか」と考え、正教会も「前妻とヨセフの間の子ではないか」と解釈しているそうです。
ヨセフの姿や夫婦の関係だけを見ても、こんなに意見が分かれてしまうキリスト教。画家たちは何を思って、様々な年齢のヨセフを描いたのでしょうか…。(もしかしたらヨセフを若めに描いている画家は、プロテスタントなのかもしれませんね)
→ 受胎告知についての絵画はこちら
→ エジプトへの逃避行についての絵画はこちら
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