未来や運勢などを、道具や事象を使って判断しようとする行為である「占い」。古代ギリシャやローマでは占いは神の御告げとされ、占いで出た結果は絶対だと考えられていました。占いに逆らって行動し、その者が死んだ場合は「神の意志に反したからだ」と恐れられ、自業自得とされたのです。占いの方法は鳥やネズミの行動を観察したり、動物の臓器を使ったりと様々でした。
また、天体の動きであらゆる予言を行おうという「占星術」も、古代バビロニアやエジプトの時代から行われており、12世紀頃には西洋でも占星術が発展しました。手相占いも12世紀頃に伝えられたようです。占いの有名どころであるタロットカードは15世紀頃にゲーム目的で作製され、18世紀頃に現代のような用途で用いられたとされています。
古代では占いは神聖視されており、占いをする者は神官でした。しかし、時代が経て唯一神の宗教が台頭するにつれ、「神が定めた未来を人間が予測できるはずがない」と占いの立場は神に反する行為、魔術的であるとみなされがちになってきたのです。医学や政界では占星術を使用することもありましたが、人間の運勢を視る占い師はインド周辺からの移動民族ジプシーや、いかさま師、魔女や魔術師などと怪しげな存在と思われるようになりました。16、7世紀の絵画には、怪しげな占い師に手相やカードで運勢を視てカモられる、貴族の姿が描かれています。それ以降になると、民衆にも定着してきたからなのか、怪しさが緩和された占い師も登場するようになります。
では、占い師についての絵画14点をご覧ください。
「ルカス・ファン・レイデン作 1508-10年」
美しい女性がカードを用いて青年の運勢を占っているようです。
題名は「Fortune-Teller with a Fool (愚者と共にいる占い師)」。
どうやら青年はカモられているようですね^^;
「Jan Cossiers 作 1635-55年」
若き貴族の手相を見ている、ジプシーと思われる東洋風の占い師。
周囲には占い師の取り巻きと思われる人々がおり、青年の後ろの
人が財布を盗もうとしています。画家は占い師に対して、
良い印象を持っていなかったようですね。
「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作 1630年」
「僕の手相を見れるものなら見てみるがいい」と言わんばかりの
態度をする偉ぶった青年。老婆は「じゃあ見てやろう」という
感じですが・・・。周囲の女性が寄ってたかって貴族の持ち物を
盗む気満々。カモられるにもほどがあるw
「バルトロメオ・マンフレディ作 1616-7年」
またもや東洋風の占い師に手相を見てもらう貴族男性。
彼も何やらカモられているようですが、占い師の背後にも
貴族の男性がおり、彼の手は占い師の背中に伸びています。
盗み盗まれ、騙し騙され、カモりカモられ。
「シモン・ヴーエ作 1620年」
今度は貴族女性の手相を見る東洋風占い師。
盗みあっこをしている後ろの二人は、仲良くなっちゃってますねw
「黙っといてくれよ、な?」「俺のこれも言うなよ」と暗黙の誓いを。
「Valentin de Boulogne 作 1626–28年」
イケメン貴族男性の手相を見る、異国風の占い師。
その周囲の状況は以下略です(笑)
「占い師はインチキで盗人だ。侮らずやり返せ」的な感じですね。
16、7世紀の画家の占い師に対する認識が共通しております・・・。
「Gaspare Traversi 作 1722–70年」
18世紀に入ると、占い師の見方は少し変わります。
老婆に手相を楽しそうに見てもらう、黄色いドレスを着た女性。
背後では占い師の夫(?)の老人もにこやかに見ています。
・・・と、書いて老婆の手元に気付きました。ん、なんか持ってる?
「Jean-Baptiste Le Prince 作 1734-81年」
民族衣装を着た老人に手相を見せる女性。
羽飾りを付けた男性が見守り、周囲には様々な道具が置かれて
います。占いの状況を実際に見て描いたというよりも、
占いの現場を作って描いたという気がするのは私だけなのかしら・・・?
「François-Joseph Navez 作 1787-1869年」
占いは国外からやって来た文化で、ジプシーが用いたからなのか、
占い=東洋という印象があるようで、東洋趣味(オリエンタリズム)の
雰囲気で描かれていますね。トランプを手に持つ老婆は
女性の手相を見て、なにやらアドバイスしている様子。
「エドワード・ヴィラーズ・リッピンギル作 1790-1859年」
ザ・貴族!というキラフワ服装をした女性が、みすぼらしく思える
老婆に手相を見せています。この絵画には東洋的な雰囲気は
ありませんね。老婆は伝統的な土着信仰を守る、良い魔女的な
存在なのでしょうか。
「ニコラオス・ギジス作 1842-1901年」
オリエンタリズム的な空気漂う楽し気な占いの作品。
勝手な想像なのですがイスラエル系ですかね?
女性の手相の結果を、誰しもが楽しそうに見守っています。
現地の様子か、もしくは旅行に来た女性なのでしょうか。
「Adele Kindt 作 1804-84年」
猫を抱き、カードを並べる老婆の占い師。
若い女性はお忍びで来た貴族の女性か、もしくはお弟子さん
なのかしら?少し怪しげな雰囲気を出しつつも、画家は占い師を
魅力的に思っているようです
ね。
「アルベール・アンカー作 1831-1910年」
トランプ占いで真剣に女性を占っている老婆。
女性も老婆の話を聞き入っており、重い悩みがあるようです。
占い師はイカサマという16世紀の認識から、180度変わっていますね。
女性にとって占いは信用に値する存在なのでしょう。
「アルフォンス・スプリング作 1843-1908年」
カードを相手に示すマジシャン風の男性占い師。
占われた男性は運勢が悪かったのか、鑑賞者に向かって
「わしはもう駄目だ」と言っているかのよう。周囲はそれを必死に
励ましているとか?男性ばかりの占いの現場も珍しいですね。
占いの歴史は古代エジプトから考え、約5000年になります。人々は「この先の未来は」「私の運勢は」「戦争の結果は」「愛する人との関係は」と様々な動機と方法で、運命を占い続けてきました。文明が発達して便利な世の中になった現代でも、それは連綿と受け継がれています。
現代においても、「エセイカサマ占い師」と「真面目な占い師」は分かれます。ある書き込みで「有料占いアプリを適当に作れば儲かる」と書かれており、お金目的の為にテンプレート的な占いを作る人が多くいることを知りました。電話占いやネットの依頼占い師にも、詐欺師が多くいるようです。(嘘八百でもそれっぽく言って騙せばお金を出させられる、という詐欺師にとっての恰好の隠れ場なのかもしれませんね)
その中で、詐欺ではなく占いを真面目に勉強し、占う相手と真摯に向き合ってくれる占い師はいると思います。神秘的な能力については何とも言えないものの、「何か他とは違う」という雰囲気を持つ占い師はいるでしょう。 「占いは本当に当たるのか?」という命題は一生解けない問題かもしれませんが、少なくともお金目的のエセイカサマ師ではなく、占い師としての誇りを抱いている方に占ってもらいたいですね。
何を言っているのかが段々と分からなくなりましたw とにかく騙されないように、占いを楽しもうと言うまとめとします^^;
【 コメント 】
>> 紡錘形の果物ちゃん様へ
こんばんは^^
今までオリエンタリズムの事を「交通網が発達した事で異国の文化が広まり、異文化に憧れたり興味を持つ者が増えた」と思っていました。
調べてみると、そればかりではなく「原始的で蠱惑的な低俗文化」みたいな差別的に捉えている場合のオリエンタリズムもあるのですね。
勘違いしていました…。
オクシデンタリズム恥ずかしながら初めて知りました。
西洋志向主義的な感じですが、ざっと読んでみるとそう簡単ではないようです。
やはり人によって思想が異なるように、捉え方で異なってしまいますね。
差異を区別するという意味の差別を無くすことは不可能に近いですが、せめて悪い意味においての差別はなくなって欲しいです。
あれ、オリエンタリズムってのも一種の差別があるんじゃなかったっけ。
反対にオクシデンタリズムってのもあります。
エキゾチズムというとネガティヴな意味合いがなくなるのかしら。差異を意識していることに変わりはないので、捉え方の問題ですけどね。
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは^^
私も個人的にタロット占いの絵画があると思っていたのですが、手相とトランプばかりで驚きました。
16-7世紀の画家は占いを描いているというより、占いを格言の手段で用いているような感じで、占いの種類はこだわっていなかった可能性があります。
その時代以降は楽しげな占いもあったので、もう少し探せば様々なタイプの占い絵画が見つかるかもしれません。
調べてみると、水晶玉は16世紀ごろに西洋に来たようです。
怪しげな占いの作品とほぼ同時期ですね。
ジプシー達が用いていたようですが、絵画には描かれていませんね。
手相やカードとは違い、水晶玉は民衆にマイナーなアイテムだったのかもしれません。
それか私の詮索力の問題か…^^;
>> 紡錘形の果物ちゃん様へ
こんばんは^^
紡錘形といえば…黄色くて酸っぱい子ですか?w
Jan Cossiersさんやド・ラ・トゥールさんなどの鼻は、まさに丸く描かれていますよね。
ジプシーやユダヤの人達の怪しさや胡散臭さを表現しようと、わざと占いという手段を用いて描いているような気が私もします。
その点においては差別めいていて少し悲しく思います。
ですが、後半になるにつれて差別がオリエンタリズムの「憧れ」になっていくのは、興味深いです。
「異質=怪しい怖い」から「異質=珍しい素敵」という思想の変遷。
このまま全ての差別がオリエンタリズムのようになればいいのにと思ってしまいます^^;
>> びるね様へ
こんばんは^^
怪しい異邦人に騙されるなという皮肉や格言めいた作品の為に、占いが用いられているものが目立ちますよね。
11-2世紀の彫刻にもかかわらず、非常に精緻ですね!
手相のみならず、ひだや筋肉、羽の質感など細かく美しい。
おお、当たっていますね!
もしそれが偶然なら驚くべきことですが、偶然にしてはできすぎのような気がします。
作者は手相を知っていて、よく調べて神にふさわしい手相を彫ったのでしょうか。
占いに騙されるなという皮肉があるのに、信仰に占いを用いている。
矛盾しているようにも思えますが、当時の人々は迷信と共に占いを信じ、異教的な側面を感じつつも、案外信仰の中に占いを用いていたのかもしれませんね。
カード占いと手相が多いですね。
若い女の子達が恋占いにキャッキャしてたり
ギリシャの神官が仰々しく臓物占いしたりする場面もありそうな気がするのですが。
やっぱり胡散臭いものを肯定的に描くな、という考えの反映でしょうか。
そういえば水晶玉を前に占う女性のイメージも強いのですが、絵画で見たことないです。
これはどこから出てきたのか……
鼻が特徴的なのは、ユダヤ系の顔の描写なのかしら。ロマ族にしろユダヤ系にしろ、当時のキリスト教圏では異質な目で見られていた? そんな人たちに重ね合わされているのかな……?
占いそのものより占いを口実にした感じに絵が多いですね。
コンク、サントフォワ教会扉口の「栄光の王」は手の皺がリアルに彫刻されていて、神の手相?がわかる稀有な彫刻です。
手相がアラビアからヨーロッパにもたらされた頃の制作で、手相占いの本を借りてきて占って?みると、
・責任感が強く、リーダー的資質を持つ
・社会的に成功する可能性が高い
・直感力や創造力に優れ、美的センスが豊か
・目に見えないものの力を信じる
・保守的、意志が強く行動力がある
・好き嫌いがはっきりしている
という結果でした。意外と当たっているようです。