寓意画(ぐうい)はアレゴリーとも呼ばれ、難解で抽象的な概念を、擬人化したり象徴を用いることによって絵画で表わす美術の形態の一つです。 → 寓意画について詳しく知りたい方はこちら
西洋では長きに渡って戦争と和平が繰り返されてきました。双方の意見が食い違い、騙しや裏切りが横行して血が流されました。戦い続けた人々は疲弊し、公平な正義と和平を求めて互いに歩み寄ろうとします。しかし、平和は長くは続かず、正義の相違によってまた争いが起こってしまうのです。そういった戦争と平和、正義などの複雑な概念を画家たちは絵画に表し、メッセージを伝えようとしました。
戦争と平和に関する寓意画、12点をご覧ください。
「シモン・ヴーエ作 1637-8年 要塞の寓意」
雲に乗った男女が戦闘態勢になっています。男性はケルベロスのような
怪物に乗っています。「難攻不落」といった感じでしょうか。
「ハンス・ホルバイン作 1497‐1543年 情熱の寓意」
赤い衣を身に纏った男性が馬に乗っています。
馬を全速力で疾走させる感じが「パッション!」ですね。
「バルトロメウス・スプランヘル作 1546‐1611年 正義の寓意」
女性二人が坐っています。剣は裁きを意味します。奥の女性が
何を持っているか不明ですが、槍は法の行使、秤(はかり)は公正を
象徴しています。
「ヘンドリック・ファン・バーレン作 1575-1632年 豊穣(平和)の寓意」
果物や花、財宝が溢れた角は豊穣の角(コルヌピア)といい、
富の象徴として描かれることが多いです。後の目隠しをした女性は
正義の寓意で、不偏不党を意味しているそうです。
「ジャックス・デュモン・ル・ロメイン作 1749年 平和の寓意」
彼女が左手に持っている物は平和を象徴するオリーブで、頭に被って
いるのは栄光を意味する月桂樹。右手は戦争に使う武具のようなもの
を燃やしています。コルヌピアってこういう使い方もできるのね・・・。
「パオロ・ヴェロネーゼ作 1575年 平和の寓意」
こちらもコルヌピア、オリーブ、月桂樹の三点セットがあります。
頭上にいる者は女神、男女と赤ちゃんは人間、犬は忠実を表しています。
女神があまり微笑んで見えないのが何か意味ありげです。
「サルヴァトール・ローザ作 1615‐73年 幸福の寓意」
コルヌピアを持った幸福の女神の周りに、お肉が食べられそうな動物
が沢山います。また、足元にはお金や本、パレットや絵筆が置かれて
います。パレットがあるということは画家の願望も少し入っていそうですね。
「シモン・ヴーエ作 1590-1649年 希望の勝利の寓意」
時間や死を象徴している老人が女性二人に虐められています。
希望を持っていれば死に打ち勝てるといった意味なのでしょうか。
それにしても鎌向けたり、髪引っぱったりと酷い仕打ちです…。
→ 運命と人生の寓意画の絵画を見たい方はこちら
「Le Nain brothers 作 1635年 勝利の寓意」
男性を踏んづけてあからさまな勝利状態。棕櫚(しゅろ)の植物は殉教者
という意味だけではなく、勝利という意味もあります。この絵画は
平和的な栄光の勝利ではなく、戦争における勝利といった感じですね。
「テオドール・ファン・テュルデン作 1606‐69年 平和の帰還の寓意」
戦いの寓意の女性と、平和の寓意の女性が仲良く肩を組んでいます。
足元には武具が捨てられ、天使に燃やされています。平和の女性が
持つ杖はヘルメスが持つカドゥケウス(ケーリュケイオン)で、勝利の
意味が含まれています。
「テオドール・ファン・テュルデン作 1606‐69年 正義と平和の寓意」
悪鬼のような人間が平和の寓意に襲い掛かろうとしていますが、
正義の寓意の老人が彼女を助けています。老人に白と黒の羽が生えている
のは、正義は白黒のバランス、均衡を大事にするという意味でしょうか。
「ヤーコブ・ヨルダーンス作 1654年 ヴェストファーレン条約の寓意」
この条約は1648年に締結された三十年戦争の講和条約です。これに
よってカトリックとプロテスタントの戦争に終止符が打たれました。しかし、
絵画に描かれているのはギリシャ神話の神々とキリスト教徒の争いの
ように見えます。中央にいる老人は正義の寓意のように思えます。
ヨルダーンス作のヴェストファーレン条約の寓意は難解ですが、独自の解釈を書かせていただきます。
プロテスタントができる以前、勢力を増したカトリックは汚職や金銭問題などが問題になっていました。教会は大金をかけて宝石や金を散りばめ、美しい絵画が描かれ、教皇や司祭の衣服も高価なものを使っていました。そうした問題があり、ドイツのマルティン・ルターはプロテスタントを立ち上げ、聖書に立ち返って質素に生きろということを民衆に語り掛け、カトリックとプロテスタントの真向対決が始まったのです。
フランドルの画家ヨルダーンスは後にカトリックからプロテスタントへ改宗しています。これから分かるように、ヨルダーンスはカトリックに対していい印象を抱いていなかったようです。絵画を見ると、左にギリシャ神話の神々(ヘルメス、ヴィーナス、ポセイドン)、右側にキリスト教の聖人のような者達が描かれています。個人的には左がカトリック、右がプロテスタントを表していると思います。ヨルダーンスから見たら、カトリック教はギリシャの神のように放埓に感じたのでしょうか。
そして、上空の老人は正義の寓意だと思います。三十年戦争で両者は和平を結んだので、公正を伝える為に描き込んだのだと思います。ですが、彼は金品をぶちまけているので、富に対する批判も込められています。頭上の女性と両側の天使、背景の円を合わせて運命の寓意を暗示しているように思え、右の天使は聖者に花を投げているのに対し、左の天使は神々に鎌を向けています。
ヴェストファーレン条約の寓意だというのに、絵画を読み取ってみると、ヨルダーンスはカトリック教を非常に嫌っていたということがなんとなく分かりますね。
【 コメント 】
>> 美術を愛する人様へ
こんばんは。
拝見してくださり、ありがとうございます!
素晴らしい絵画の数々にいつも助けられておりますw
色々ふざけて書いておりますが、記事を読んで心に何か響くものがあれば幸いです。
これからもよろしくお願いします^^
こんばんは,初めてこのブログを拝見した者です。^_^
絵画についての,詳しく,わかりやすい説明を聞き,
「なるほどー」ととても納得できました。
これからも,このブログを楽しみとして,拝見したいと思います!