キリストとサマリアの女の絵画13点。差別を越えて神の教示とメシアを伝えた物語 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

キリストとサマリアの女の絵画13点。差別を越えて神の教示とメシアを伝えた物語

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 キリストとサマリアの女は、新約聖書のヨハネの福音書に記されている物語です。
 ある日、キリストと弟子達はサマリア地方の町のはずれにあるシカルへと訪れていました。お昼時にキリストが一人で井戸のそばに座っていると、水がめを持ったサマリア人の女性が来たので、キリストは「水をください」とお願いしました。彼女が「ユダヤ人はサマリアを良く思っていないのに、どうして水を飲む事を頼むのですか?」と尋ねると、キリストはこう答えます。
「水を欲しいと言った者が誰であるかを知っていたら、あなたの方から願い出ている。その者は生ける水をあなたに与えただろう」と。そしてキリストは彼女に神の教えを説き、自分自身がメシア(救世主)であると伝えました。

 サマリアの女性は町の人々のところへ行ってその事を伝えたので、メシアを信じた者はキリストの元へ駆けつけ、シカルの村のサマリアの人々は神の信者となったのでした。この出来事は、キリストの教えが異邦人の世界へと広まった最初のきっかけだったとされています。
 水をくださいと頼み、サマリアの女性に神の教えを説くキリストの絵画13点をご覧ください。

 

「作者不詳  シリアの彩飾写本挿絵より」
水がめを置き、井戸にロープを垂らしているサマリア人の女性に
信仰を伝えるキリスト。背後には岩肌と可愛らしい家々が並んで
いますね。

「Southwest German? 作  1420年」
金箔をふんだんに使った美しい中世の作品。ただ、サマリア人の
女性のポーズがかなりワイルドですね。キリストが指をびしっと
させて説いているのに、力仕事の真っ最中です。

「Rutilio di Lorenzo Manetti 作  1571-1639年」
「ユダヤであるあなたがどうしてサマリアの私に話しかけるの?」
という問いに対し、今度はキリストの態度がちょっと気になります。
「水を欲しいと言った者が誰であるかを知っていたら、あなたの方から
願い出ているのになぁ~」という感じの態度なのかな?

「ジョヴァンニ・ランフランコ作  1582-1647年」
こちらも日本人の私から見たら、少し態度が大きめなキリスト。
サマリアの女性は「この人が本当にメシアなのかしら・・・?」とまだ
不審げな表情をしていますね。

「Giovanni Biliverti 作  1585-1644年」
足を組むキリストって、始めて見たような気がする・・・。
なんというか、井戸に座っているのに玉座のように感じます。
サマリアの女性も負けじとのけ反り、視線を合わせます。
そして、中央の少年は一体誰なのでしょうか?^^;

「パオロ・ヴェロネーゼ作  1528-88年」
こちらのキリストは謙虚気味ですね。水を汲み中の女性に
「水をください」とお願いしています。向う側の人達は異時同図法で、
女性が人々にキリストの教えを伝えているのかもしれません。

「アンニーバレ・カラッチ作 1560-1609年」
こちらは既にサマリアの女性が村人に広めた後なのでしょうか。
救世主を見に、人々ががやがやとやって来ています。


「アンニーバレ・カラッチ作   1595-97年」
カラッチさん二枚目。キャンバスの向きは変わりましたが、
構図的にはよく似ています。背後のおじさんが一人増えたことと、
キリストの動きがよりダイナミックになった気がします。

「アブラハム・ブルーマールト作  1566-1651年」
牧歌的で穏やかな感じの作品で、二人ともポーズが控え目です。
フェルメールの描く女性の雰囲気に似ていますね。

「グエルチーノ作  1619-20年」
他の作品とは異なり、二人がクローズアップされていますね。
井戸の水汲みは取りやめ、神の教えを懸命に聞いています。

「作者不詳  18世紀」
近代の作品ですが、古典的な風情がありますね。
サマリアの女性は微笑みながら、落ち着いた様子で話を聞いています。

「ベネデット・ルティ作  1715-20年」
謎の手の動きをするキリスト。恐らく、サマリアの女性はかつて
五人の夫がおり、六人目の男性がいるという事をキリストが言い
当てたので、そのシーンを描いているのだと思います。


「フェルディナント・ゲオルク・ヴァルトミュラー作  1793-1865年」
こちらのキリストもなんとなく意味ありげなポーズ。これも女性の
男性遍歴を言い当てているところなのかな?
サマリアの女性は気にすることなく、静かに水を汲んでいます。

 サマリア人が登場する他の物語として、「よきサマリア人」という話があります。
 「隣人を愛す。では隣人とは何ぞや?」と問う学者に対し、キリストはこのようなたとえ話をしました。「強盗がある人を襲って半殺しにした。瀕死の人が倒れているも、祭司とレビ人は無視をした。しかし、サマリア人は彼を介抱し、宿屋へ連れて行ってお金を払った。彼にとっての隣人とは誰か?」その問いに対し、学者は「それはサマリア人でしょう」と答え、キリストは「なら貴方もそのようにしなさい」と返したのです。
 ユダヤ人から嫌われているサマリア人は、この話でも良人として表現されています。サマリアの女の物語でも、よきサマリア人の物語でも、人種や性別、身分を問わず、善行を行って神の教えを信じた者のみが救われると説いているのです。
 信仰については異なる私達でも、隣人愛の思想は共感できるように思います。この世から差別や偏見がなくなればいいのになぁと祈るばかりです。

→ よきサマリア人についての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    この女性が五人の夫と六人目の男がいるのはどうしてかというのは聖書では明らかになっていませんが、不幸な理由である可能性が高いと私も思います。
    男運が無かったのかもしれませんね…。
    どこまでも運がなく、差別されている人種の女性だからこそ、キリストは一番に信仰を伝えたかったのではないでしょうか^^

  2. 季節風 より:

    扉園様、こんばんわ。
    サマリアの女に五人の夫と六人目の男がいると知って、この女性は若いのに不幸な人生を歩んできたのではと思うのはそれこそ私の偏見かもしれませんがそう思ってしまいます。
    ですが聖書の中で名誉ある立場の女性だと思いますし絵画の中でも爽やかで品もあるしっかり者みたいですね。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> またまたテーマ違い様へ
    こんばんは^^
    穏やかにふきんで拭いているかと思いきや、その下には生々しい戦利品が…!?
    実はふきんには血痕がべっとりと…!←ぇ

  4. またまたテーマ違い より:

    あ、ふきんを畳んでいるのですね^^;
    わたしゃてっきり、力一杯なにかを押さえつけてるのかとw

  5. 管理人:扉園 より:

    >> またまたテーマ違い様へ
    こんばんは^^
    優雅な微笑みを浮かべながらふきんをたたみ、鍋の背後からおもむろに取り出したものは、煌めく鋭い切っ先…。
    いやいや、キリストにバレてますって!(そういう問題でもないw)

  6. またまたテーマ違い より:

    ブルーマールトさんの絵を見て、こんどはユディトさんを……^^;

  7. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    「あ、そんなこと言っちゃうんだ…」って私も思いましたw
    神の子は謙虚に自信満々なのです^^;
    黄色は過去の西洋において悪いイメージを持たれており、「イスカリオテのユダの色」でした。
    卑しい者、裏切り者、娼婦、狂人などを象徴するようです。
    「キリストはサマリアの女性のような、卑しい身分とされる差別対象だとしても、気にせず布教する素晴らしい御方」という事を強調する為に、黄色の衣服にした絵画もあるのかなと思います。

  8. 美術を愛する人 より:

    「水を欲しいと言った者が誰であるかを知っていたら、あなたの方から願い出ている。」
    これ、自分から言っちゃうんですね。
    イエスって、意外とナルシストですよね(笑)
    サマリアの女性が黄色いドレスやショールを羽織っている絵が多いように思われますが、黄色は何か意味があるのでしょうか?

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