「愚者の石の切除」は16-17世紀頃のネーデルラント地方(オランダ辺り)で伝えられた主題です。
ネーデルラントの伝承では人間の頭の中に石があり、それが大きくなると頭がおかしくなって阿呆や狂人になると言われていました。狂人を治す為には医者に切開手術をしてもらい、石を取り出さなければなりません。この伝承はお人よしや世間知らずの者が詐欺師に騙されたり、甘言に釣られて多くの人が悪徳商法に騙されたりすることに対する風刺として用いられました。
頭を手術され、石を出されている人々の姿11点をご覧ください。
「ヒエロニムス・ボス(ボッシュ)作 1475-80年」
2016年に日本へやって来た作品。知っている方も多いはず。
石があると男を騙し、やぶ医者が金をせしめようとしています。
右の女性は被害者の妻ですが、左隣の男と不倫の中。
→ ヒエロニムス・ボスについて知りたい方はこちら
「ピーテル・ブリューゲル作 1550年頃」
頭がおかしい人が多い (一般人の中で) ことに対する風刺でしょうか。
頭の石を取り除く手術を受けに、狂人がぞろぞろと集まっています。
ですが、狂人なので一筋縄ではいかず・・・。嫌がって暴れている者もいます。
「Jan Sanders van Hemessen の追随者作 1550年頃」
こちらもやぶ医者まがいの男が、額から石を取り出しています。
被害者の男は立派な服装をしているので、権力者は愚者ばかりという意味か、
金持ちは騙されやすいという意味か・・・。
「ダフィット・テニールス (子)作 17世紀」
アウチッ!という言葉が聞こえてきそうな絵画。
真意の程は分かりませんが、手術したら天才になれるよ!
とおだてられ、純朴な青年が騙されているように見えます・・・。
「ヤン・ステーン作 17世紀」
よってらっしゃい見てらっしゃい!石を取り除いて、頭を良くしましょう~!
さぁこれが出した石だよ!手術して欲しければ金を支払いな!
という悪徳業者のキャッチセールスが聞こえてきそうな作品。
「Pieter Huys 作 16世紀」
手術されている男は力なくぐったりし、左の女の手を握っています。
彼女の持っているのが石でしょうか。彼等は被害者を心配している
ように見せているものの、腹の底では何を考えているか分かりません。
「Marcellus Koffermans 作 16世紀」
ボスの作品を参考にして描かれた絵。カメラ目線の男は安心しきったように
医者に身を委ねていますが、背後で何やら話しているし、医者の靴が
怪しいので、間違いなくやぶ医者に引っかかっているんでしょう。
「Pieter Jansz Quast 作 1630年」
等身が低く、なんだか可愛らしく見える絵。診療所めいたところで
騙された患者が石を出されようとしています。背後の二名は順番待ちでしょうか。
「Giacomo Francesco Cipper 作 17世紀後半-18世紀前半」
狂人と思われる男の頭を手術している、怪しげな医者。
人々が物珍しそうにその様子を眺めています。
当時はこういった見世物的なことが行われていたのでしょうか・・・?
「フランス・ハルスの追随者作 17世紀」
ぎゃあぁぁ~!!という叫び声が聞こえてきそうな壮絶な表情。
両手を握り締め、頭を開く痛さを存分に伝えています。
少年の持ったお盆には、取り出された幾つもの石が。
「レンブラント・ファン・レイン作 1624-5年」
あのレンブラントも愚者の石の切除を描いていました!
目をしょぼつかせる老人二人が、じいちゃんの頭を開こうとしています。
今ではテレビ、ネットと情報が溢れていますが、当時は得られる情報は限られていました。超常的な存在が実際にいると信じられ、町では根も葉もない迷信が横行していた時代、。「愚者の石の切除」も今では比喩的に捉えがちですが、実際に信じていた人もいたのでしょう。医者の元へ駆け込んで「石を取ってください!」と言った人もいたかもしれません。そういった思いこみの激しい、騙されやすい人は詐欺師の餌食となりやすいと思います。うまい話には裏がある。愚者を治す為に愚者にならないよう、冷静に物事を考えられる人に私はなりたいです。
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