アクタイオンは女神ディアナ(アルテミス)の水浴を偶然見てしまったが為に、命を落とした運の悪い猟師の青年です。
ある日、アクタイオンは仲間と共に50匹の猟犬を連れて、キタイローン山の谷間に来ていました。彼はケンタウロスのケイロンに育てられて猟師の技を教えられたとされており、その腕はピカ一でした。沢山獲物を捕まえたアクタイオンは一時休憩の為に泉を探します。しかし、その谷間はディアナの聖域であり、奥の洞窟にある泉では女神が従者を連れて水浴びをしていたのです。
何も知らないアクタイオンは泉へ入り込み、ディアナの裸体を見てしまったのでした。怒り狂った女神は彼を鹿の姿に変え、50匹の猟犬をけしかけました。鹿と化したアクタイオンは自分の変化におののき、何処に逃げようかと迷っている間に、猟犬に食い殺されて息絶えたとされています。
この物語はルネサンスやバロック時代の貴族たちに人気があったようで、想像以上に多くの作品が残されています。では、女神様の水浴場面と鹿人間となったアクタイオンの絵画14点をご覧ください。
「中世時代の彩色写本の挿絵 年代不明」
キタイローン山のガルガピアの谷間で、仲間と50匹の猟犬と共に
狩猟を楽しむ青年アクタイオン。しかし、悲劇は突然訪れてしまう
のでした。その場所は女神ディアナの聖域だったのです。
「ドメニコ・ヴェネツィアーノ作 1410-61年」
偶然にも女神ディアナと従者の入浴シーンを目撃してしまった
アクタイオン。普通の女性なら「キャー!」となる場面ですが、
相手は女神様。ディアナは怒り、アクタイオンに魔法を掛けてしまいます。
「ルーカス・クラナッハ(父)作 1472-1553年」
クラナッハの女性陣営が怖すぎる・・・^^;
ディアナ様の魔法により鹿に変えられてしまったアクタイオン。
彼は逃走虚しく、何も知らない仲間達に追いかけられ、
狂ってしまった猟犬達に食い殺されてしまうのでした。
「ルーカス・クラナッハ(父)作 1525年」
こちらもクラナッハの独特なプロポーションをした女性達が、
死にかけの鹿人間に迫り来ています。雰囲気が怖すぎます・・・。
「Matteo Balducci 作 1509-54年」
こちらのアクタイオンは完全に鹿に変えられてしまっていますね。
ディアナ様と従者達は余り怒っている風ではなく、「何あの男。
女神様の裸体を見るなんざ百万年早いのよ」と言っている感じです。
「ヤーコブ・ヨルダーンス作 1593-1678年」
ディアナとアクタイオンの絵画は中世から近代にかけて、沢山の
作品が描かれています。それだけ依頼する人が多かったという事
でしょうかね。貴族たちも女神様の入浴に興味津々だったのか・・・。←ぇ
「ヘンドリック・ファン・バーレン作 1575-1632年」
逸話によっては「俺の方がディアナよりも狩猟の腕が上だ!」と
自慢した為に、女神様の怒りを買って殺されたというのもあります。
しかし、その物語の絵画は見つからず、入浴シーンの絵画ばかりが
残されています。
「ドメニキーノ作 1581-1641年」
薄ーく微笑みを浮かべて目が全く笑っていない女神様。アクタイオンは
真面目な表情をしていますが、この直後破滅が訪れる事でしょう・・・。
「Carlo Cignani の工房作 1628–1719年」
お身体を従者に拭かせているディアナ様。アクタイオンは既に鹿と
化しており、慌てて逃走する場面のようです。鹿となった男に
全く興味はないわ、と言った感じですね。
「Jan van Bijlert の工房作 1660年」
こちらは少ししおらし気な女神様一行。「きゃー!」という悲鳴が
聞こえてくるようですね。アクタイオンの頭からは既に鹿の角が
生えており、変化が始まっております。
「ジョゼフ・ハインツ(父)作 1564-1609年」
あれ?構図的には上のヤンさんの作品に近いのですが、女性達が
めっちゃ嬉しそうなんですけど・・・。ディアナ様も積極的ですし、
右側の従者さんも満面の笑みです。話しが違うって。
「ジョゼフ・ハインツ(父)作 1590年頃」
アクタイオンの死後、正気に戻った猟犬たちはご主人を探して
彼の養父ケイロンの元へ向かいます。賢者ケイロンはアクタイオンの
身に起こった事を悟り、犬たちの為に銅像を作ってあげるのでした。
「ジャンバッティスタ・ピットーニ(子)作 1
687-1767年」
きゃっきゃと楽しそうに水浴を楽しむ女神様一行。
初夏の爽やかな晴れの日に楽しむバカンスな感じですね。
さて、アクタイオンを探せ!
「Louis Jean François Lagrenée 作 1725-1805年」
他の構図と異なり、人物、特にディアナが画面の中央に大きく
描かれていますね。今まで見てきて、絵画の半数がディアナの
頭に月の装飾が描かれています。彼女は月の女神セレネと同一視
されており、その影響かと思われます。
鹿となって自らの猟犬50匹に噛み殺されたアクタイオンは、さぞかし無念だったでしょう。wikiによると、アクタイオンは死後に亡霊となり、オルコメノスの住人に化けて出て苦しめたそうです。住人もとんだとばっちりですね。住民はデルポイに行って亡霊を鎮める方法を伺うと、「遺品を見つけて地中に埋め、アクタイオンの像を作って鉄の鎖で岩に縛り付けなさい」というお告げが得られました。
私はてっきり「遺品をきちんと埋めて、銅像を作って亡霊を供養しなさい」となるかと思ったら、「遺品を埋めて隠し、銅像を縛って霊を束縛しなさい」という意味合いのようですね。霊になった後も踏んだり蹴ったりのアクタイオンなのでした・・・。
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
ディアナは狩猟の女神でもあるので、朝~昼に狩りを行い、入浴して汗を流し、夜には月の女神の仕事をしていたのかもしれませんね。神様の一日は忙しそうです。
アクタイオンを助けようとして、うっかり自分も女神様のお姿を見てしまったら、同様の末路を辿りますからね…。
他の猟師たちは「可哀想だが運が悪かったと思って諦めろ」という態度なのでしょう。
まさに「触らぬ神に祟りなし」ですね^^;
こんばんは。
ディアナ女神は清浄なイメージもあるので昼間入浴をして夜は月の女神として忙しいのでしょうか。
最初の「中世時代の彩色写本の挿絵 年代不明」では裸体で冷酷な表情のディアナ女神、でも近くに他の猟師達もいますよ。アクタイオンが残酷な目に遭ってても近くにいる仲間は知らん顔な構図です。理屈抜き、女神を怒らせると恐ろしい。
>> 美術が好きな蜘蛛様へ
こんばんは、はじめまして^^
訪問ありがとうございます!
愛を司るヴィーナスと違い、アルテミス様は貞節を司っていますからね。
ギリシャ神話は愛と欲望が渦巻いているイメージが強いですが、清純の美しさと恐ろしさをこの神話は表しているのかもしれませんね。
言い方はあれですけど、全身を見せびらかしている感じより、恥じらって隠しながらも少し見えている方が美しく艶やかな雰囲気になると私も思います。
きっと上品に見えるんですよね^^
はじめまして。ギリシャ神話の絵画を見ていたらこの記事にさしあたりました。
とくに最後のアルテミス様のなんとお美しいことか!正に神々しいといえますね!
アルテミス様の美しさは、他にはない清純で無垢でそれゆえに野性的で気高いものなので、作者の裁量が図られますよね。
裸体を描くとどうしてもエロチックになってしまいますが、そこで単なるなまめかしい姿になるのか、はたまた色っぽくなるのかが変わってしまいます。アルテミス様は(作者が意図しているのでない限り)後者が最適だと思います。
…何が言いたいのかうまくまとまっていませんが、アルテミス様の美しさは表現が難しいですよね。
>> 出ました、ファムファタル^^ ←ぇ様へ
こんばんは^^
アルテミス様、自覚はないけどファムってますねw
世紀末の画家達はぱっと調べた感じ、余りみえませんでした。
(私の捜索力が足りないからかもしれませんが…)
「かちかち山」に無垢ゆえの残酷さがあったっけって思いましたが、兎さんがアルテミス型という解釈なんですね。
狸さん酷いことをしたとはいえ、可哀想なことになってますw
またアルテミス様の作品拝見しに行かせていただきます^^
穏やかの水面下で、もしかしたら大きな波紋が起こるかも…。
あれ……
画材→画題
『御伽草紙』→『お伽草紙』
失礼しました。
世紀末の画家は、この題材は扱わなかったのでしょうかね?
彼らが好みそうな気がしますのにw
アルテミスといえば、太宰治の『御伽草紙』収録の『かちかち山』で、アルテミス型という表現があって……
無垢ゆえの残酷さみたいなのを、彼はそう表したみたいです。
そういえば、アガメムノンも狩りのときやらかして……
ところで、私の次に控える画題がアルテミス……
残念ながら、アクタイオンは出てきませんが。
そして、かなり穏やかーな絵になると思いますがw