オアンネスに関する絵画12点。アダパやダゴンと繋がる、文明を伝えた半人半魚の神 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

オアンネスに関する絵画12点。アダパやダゴンと繋がる、文明を伝えた半人半魚の神

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 オアンネスは紀元前300年頃のベロッソス著の歴史書「バビロニア誌」に言及された、半人半魚の神です。
 オアンネスの起源はメソポタミア神話にあります。アッシュールなどから出土された紀元前14世紀頃の銘板の欠片に、七賢人(アプカルル)の神話が彫られていました。七賢人が人類に文明をもたらしたとされ、その長が半神のアダパでした。アダパのバビロニア名ウアンナがギリシア語に変えられ、オアンネスになったとされています。

 オアンネスは「知性を持ち、人間の言葉を話した。全身は魚で魚の頭の下にもう一つ頭があり、魚の尾ひれ部分に人間の足がある。昼間は陸で過ごし、太陽が沈むと海に戻るという水陸両生」という特徴を持っていたそうです。オアンネス率いる七賢人は人間にあらゆる文明を教え、そのおかげで人間は野蛮な風習から脱却し、人間らしい生活を得たと考えられています。
 オアンネスの神話は各地に伝わり、後に七賢人の総称であるアプカルルと同一視されるようになり、古代メソポタミアとカナンで信仰された豊穣神ダゴンとも結びつき、混合されるようになりました。
 では、オアンネスやアプカルル、ダゴンにまつわる絵画12点をご覧ください。

 

「シュメール時代?の銘板より」
七賢人アプカルルは賢神エアの使者として人類の元へやって
きました。左がエアさん。長アダパ(オアンネス)ともう一人は
お魚さんの着ぐるみを被ったような姿をしていますね。

「古代の写し  年代不明」
横たわる人の両サイドに立つアプカルル。
手に持っているのは・・・鞄?テクノロジーアイテムが
入っているのかしら?ちょっと可愛らしいですね^^

「イラクのニムルドのニヌルタのレリーフより 1853年発見」
おしゃれなお洋服や装飾を施した格好のアプカルル(オアンネス)。
お魚は着ぐるみではなく被り物のような感じですね。
英知が込められたお顔をしております。

「イラクのニヌルドの壁画より」
鳥の姿をしていますが、こちらもなんとアプカルル。
魚と鳥の両方の姿で考えられていたようです。
天空と深海、双方とも神秘性が感じられる故でしょうか。

「ドゥル・シャルキンのレリーフ」
オアンネスをベースにしたダゴン神とされています。
ダゴンは旧約聖書でも度々名前が登場し、元は豊穣神でしたが、
聖ヒエロニムスが誤って魚と結びつけた為、半魚の姿と
考えられるようになりました。

「シリアのドゥラ・エウロポスのシナゴーグの壁画  2世紀頃」
イスラエルVSペリシテの戦争。シロの神殿でペリシテ側は
略奪を行い、十戒の石板が入っているとされる契約の箱を
奪っていってしまいました。契約の箱はダゴン神の神殿に
奉納されます。しかし・・・。

「年代不詳の挿絵」
契約の箱が置かれた後二日間、ダゴン神像が倒れていたのです!
しかも像の頭と腕は壊れてしまっていました。
それから契約の箱は様々な災いを呼び起こしました。

「フィリップ・ジェイムズ・ド・ラウザーバーグ作 1793年」
ダゴン神殿の破壊を描いた作品。おそらく書籍の挿絵でしょう。
西洋目線では異教の神なので、破壊を描く作品が目立ちますね。
この像は魚っぽくありませんが三又の槍を持っているので、
海と関連付けられているのが分かります。

「19世紀の挿絵」
ダゴン神殿を想像で描いたと思われる作品。
異国情緒的な建物と、左側には訳の分からない像。
西洋人が歩いている事から、もしかしたら「なんちゃって
ダゴン神殿」的な娯楽施設を作ったのかも…?

「オディロン・ルドン作  1840-1916年」
バビロニアで崇拝されたオアンネス神。後年になってダゴンと
同一視され、ユダヤ教とキリスト教により悪魔とみなされて
しまいました。しかし、ロマン主義の画家ルドンはオアンネスを
人類に英知をもたらした神として神秘的に描いたのです。

「オディロン・ルドン作  1910年」
ルドンはオアンネスの作品を何枚か描いています。
何かを被って目をつむる、クラゲやタコにも通じる姿を
したオアンネス。海に漂う知恵者といった風情ですね。

「オディロン・ルドン作  1910年」
オアンネスとスフィンクスという作品。
超と蛇が合体したかのようなオアンネスに、地にたたずむ
スフィンクス。ルドンはオアンネスを海と天空の両方の
側面を持っていることを知っていたのでしょうかね。

 オアンネスの絵画紹介をしようとしたものの、作品数が少なく色々飛び火してしまいました。異教の神であるとはいえ、西洋ではほぼ描かれていないのですね…。やはりキリスト教の影響は色濃いです。
 そして悪魔とみなされてしまったダゴン神は、20世紀のアメリカ小説家H.P.ラヴクラフトによって発祥したクトゥルフ神話において、更に邪悪な存在として考えられるようになります。ダゴンは旧支配者であるクトゥルフに使え、恐れられる人間と魚の異形の怪物となるのです。
 最高神の使命により地球へ到達し、人類に文明を伝えたアプカルル。その長であるオアンネス。その神話が宗教争いや創作により歪められていき、醜い怪物に変貌していくのはなんとも恐ろしいですよね。この中で、宗教のバイアスにかかっていないルドンの神聖な作品がひときわ輝いて見えます・・・。

<おまけ>
 またもやスウェーデンのシンフォニックメタルバンド「Therion」ですが、2004年に「Call of Dagon」という曲を手掛けています。美しい曲でとても素敵で、個人的に大好きです。興味が沸いた方はぜひ聞いてみてください!^^

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

    >> ルドンのおかげか……?様へ
    こんばんは^^
    読了おめでとうです!
    本当ですね。日本語検索だと何もひっかからない…。
    唯一、我がブログのこのコメントだけがひっかかりました(笑)
    オアンネスだけが日本に広まったのは、間違いなくルドンパワーのように感じますw
    調べてみると、ベルースとオモローカはバビロニア神話のマルドゥークとティアマトに該当する神のようです。
    この名称ならそこそこ知名度がありますね^^
    地域によって名称が変化しすぎのような…。
    土着の神と融合した結果なのでしょうかね?
    バビロニアやメソポタミアの神話は未知数なので、また勉強してみたいですね。
    (まだ北欧神話を学習中なのです…)

  2. ルドンのおかげか……? より:

    『聖アントワヌの誘惑』を読み終えたので、カルデヤの神というベルースとオモローカの画像も見てみたいと検索してみたのですが、日本語検索で出てくるのがオアンネスだけ……こりゃいかにっ( ̄▽ ̄);;;
    ありがたいことに、巻末にフランス語が……
    ふたたび、検索の旅へと立つ冒険者であった……

  3. 管理人:扉園 より:

     >> ロップス来てたのかっ。様へ
    こんばんは^^
    なるほど。確かにシスレーさんは印象派そのものを個性にしたような感じな方ですね。
    あれもこれも手を出しちゃうと個性が薄れるので、「典型的」を貫くのも個性の一つなのかも?
    ルノワール風のサボテン人間、なんだか日光浴をしているようで可愛いです^^
    もっと色白にして微笑ましたらルノワール感が増しそうですけど、それだとサボテン感が減ってしまいそうですし。
    バランスよく落とし込むのが難しいですが、素敵にミックスしていると思いますw
    ルドンの素朴さ、分かります。
    作品によっては不安や恐怖を感じるものもあるのですが、気球や花、キュプロクスなどは静寂の落ち着きを感じます。
    「目」はこちらを見て、訴えかけてくる。
    サボテン人間も一見醜いものの、表情は穏やかで崇高にすら思える。
    ルドンの世界は激しい音がなく、静かなイメージなのですよね。
    無意識の世界ってそんな感じなのかななんて連想してしまいます。

  4. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    幻想の画家いいですよねー。
    ルドンやクレーは一見しただけでは「何を表現したかったのだろう?」と思ってしまう作品もありますが、強く引き込まれる魅力がありますよね。
    シーレの作品は豊田市美術館で拝見しました。
    筆致が独特で、彼の性格や精神、心が透けて見えるようでした。
    ルネサンスの精緻な作品もいいですよね。
    当時は権力者の依頼で製作していたので個性が出しづらい状況にあったかもしれませんが、画家の特徴や個性が感じられます。
    勿論、個性=傑作ではないとは思うものの、ボスなどのアクの強い画家に憧れてしまいます^^;

  5. ロップス来てたのかっ。 より:

    個性というと、逆もいますね。
    アルフレッド・シスレー……オーソドックスな印象派で、モネみたいにとんがったところもなければピサロみたいな素朴さもないけど、印象派の代表的な画家のひとりです。
    そういう者に、私はなりた……とか言いながら、ルドン×ルノワールなんていう突飛なのを描いちゃう私でした。だって好きなんだもん( ̄▽ ̄)
    ……まじめな話、私はルドンにものすごく落ち着く素朴さのようなものを感じるんですが、他人に話してもなかなかわかってもらえない^^;

  6. オバタケイコ より:

    基本、幻想の画家が好きなのでルドンやクレー、ラッカムなどが大好きです。巨匠と呼ばれる画家は、誰にも真似できない個性を持ってますね。ルソーも独特で素朴な画風で個性を放ってますね。つい、好きな画家の話に及んでしまいます。私が今まで一番衝撃を受けたのは、20代の頃初めて知った、エゴン・シーレの裸体の凄い形相の自画像でした。絵の前で動けなくなってしまった事を覚えています。

  7. 管理人:扉園 より:

    >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    ルドンの作風は誰にもマネができません。
    個人的に「いかに個性が表れるか、作者のこだわりが感じられるか」というのが傑作の定義の一つであると思っていて、ルドンの作品は「彼にしか描けない」傑作ですよね。
    世界観が凄すぎです。
    (あれ、前にも書いたかしら?)
    またルドン展やって欲しいですよね^^

  8. オバタケイコ より:

    あぁ、ルドン。憧れの画家。私が勤める美術館でも、数年前にルドン展開催しました。本当に独特の個性ですね。
    モノクロの時代もいいし、色彩に目覚めてからの作品もホントに素晴らしい!

  9. 管理人:扉園 より:

    >> びるね様へ
    こんばんは^^
    真面目な晩餐会のメニューをエイプリルフールの皮肉にしちゃったのですかw
    協会側の「えっ…」という表情を見て、ルドンは内心ほくそ笑んだかもしれません。
    「面白いね、これをメニューにしてみよう!」と本当に実践してしまうような協会なら楽しい場所なのですが、そうもいきませんね…。
    むしろ再現が難しそう。
    サティは音楽界の異端児で、曲に変わった題名をつけるのでしたね。
    「干からびた胎児」…。ルドンの魚が干物になったらもっと凄惨な姿になりそうですw
    ロップス生誕の地で作品を観るというのは贅沢ですね^^
    沢山の常設作品がありそうです。

  10. びるね より:

    4月1日はpoisson d’avril 、いうまでもなく4月馬鹿の日です。版画芸術家協会に入ったルドンはたまたま4月1日にあたった定例会後の晩餐会メニューの版画を協会から頼まれましたが、協会の大半の版画家と著しく違うルドンはここでも孤立して半分皮肉を込めて制作したのだそうです。
    メルリオは「胎児のような魚」と書いていて、サティっぽいかも。
    ロップスはナミュールで常設コレクションと共に「100のクロッキー帖」展をみることができました。

  11. 管理人:扉園 より:

     >> ロップス来てたのかっ。様へ
    こんばんは^^
    ロップスさん何枚かいらっしゃいましたよ。
    分かります。個人的にはロリポップっぽいのでキャンディを連想しますw
    クレーのお魚さんとは、お父さんの部屋おしゃれですね!
    我が家は和風の平屋住宅なので、西洋絵画が合わないのです^^;
    ただ、ボスグッズは着々と集まっています(笑)

  12. ロップス来てたのかっ。 より:

    フェシリアン・ロップスって、チュロスみたいな感じの揚げ物系お菓子とか、砂糖菓子にありそうな名前ですよね。←ぇ
    ところで、魚というと思い出すのが……
    我が家のお父ちゃんの部屋に飾ってある、クレーのお魚さん( ̄▽ ̄)

  13. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    興味を持ってくださり嬉しいです!
    Therionはギリシア語で「獣」を意味すると思っていましたが、神格なのですね。
    アンチキリストやダゴンだけではなく、ギリシャ神話や北欧神話、旧約、新約聖書など様々な物語をテーマに曲を作っています。
    ミサイルメーカーが「神々からの光」。
    挑戦的な名前ですね…。
    あまり神に近づきすぎると、バベルの塔のようになりそうで心配になってしまいます^^;

  14. 管理人:扉園 より:

     >> 象徴主義、かしら?様へ
    こんばんは^^
    いえいえ、私も深く知れてよかったです。
    個人的にTherionの曲の方を先に知っていたので、アポロニウス記事を書くときに「あなたのことか!」と驚きましたw
    オアンネス様、笑われちゃったのですか^^;
    キリスト教的な物語なので仕方ないといえばそうですが…。
    ルドンの挿絵を見ると、滑稽な雰囲気はありませんね。
    ロップスの「聖アントワーヌの誘惑」ありますね。
    確か、ベルギー奇想の系譜展にいらっしゃったような。
    ただ、彼の作品はセクシーすぎて躊躇してしまいます(笑)
    アントワーヌさん、あんな冒涜的な幻想を見たら狂気に陥ってしまいそうです…。

  15. 管理人:扉園 より:

    >> びるね様へ
    こんばんは^^
    フローベルとラフカディオ・ハーンは同年代の人だったのですね!
    ハーンの方が新しいと思っていました…。
    ということは少なくともハーンはフランス語、英語、ギリシア語は書いたり話せたりできたのですね。
    日本語は書くことはできなくとも、話せていたようですし、凄い語学力ですね^^;
    同時代の画家はほぼ描いていないオアンネスの主題を9点も手掛けているなんて、ルドンはやはり「違う目」を持っていますね。
    4月1日のお魚は「Menu of a Dinner for French Lithographers, April 1, 1887」ですか?
    パンダ目、口がワンちゃんみたいで可愛いですね^^
    初めて見ましたが、私もすぐに好きになりました。
    でも、これがディナーに出てきたら困ってしまいます(笑)

  16. 美術を愛する人 より:

    本題とは少し外れて恐縮ですが、therion という単語も「神々からの」っていう意味らしいですね。このバンド名も神話と深く関わってるようで、興味をそそられました。ちなみにアメリカのミサイル製造メーカーにレイ・セリオンという企業名があり、直訳すると神々からの光…なんだか複雑な気持ちです。

  17. 象徴主義、かしら? より:

    アポロニウスにつづいてオアンネス特集、ありがとうございます^^
    『聖アントワヌの誘惑』では、割と滑稽な役所なのですよ( ̄▽ ̄)
    「笑うなコラー、これでもわたしゃ、古代の偉い神様なんだぞー」みたいな感じで( ̄▽ ̄)
    そういえば……、ルドンの挿絵も有名ですが、『聖アントワヌの誘惑』というと、ロップスのエロティックな絵が……( ̄▽ ̄)

  18. びるね より:

    フローベルの『聖アントワーヌの誘惑』が出版され、早速英訳したのがラフカディオ・ハーンだったというのが少し意外でした。
    ルドンのレゾネをみるとオアンネスは7点、別に石版画が2点あり気に入っていたようです。
    ルドンの魚のなかで一番は、4月1日と思っています。

  19. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    どうやらルドンは「聖アントワーヌの誘惑」を読んで、そこから着想を得たみたいですね。
    私はまだ未読ですが…^^;
    オアンネス様、着ぐるみ感すごいありますよね(笑)
    なんだかバベルの塔展のキャラ「タラ夫」のような愛着を覚えますし、日本のゆるキャラにしても違和感がないですw
    分かります。「見るからに神!」という威厳溢れる姿で文明を伝えられるより、可愛い姿でぴちぴち教えてくれた方が勉強したくなります^^
    七賢人で手分けして伝えてくれるのもいいですよね。
    農耕担当、建築担当とか分かれていたのかな。

  20. 美術を愛する人 より:

    オアンネスといえば、フローベールの聖アントワーヌの誘惑の中に出てくるのしか思い浮かびませんでした。
    ルドンの絵でスフィンクスが出ている絵はこの本からの発想かもしれませんね。
    オアンネスの元ネタはこれだったのか!と、お魚だけに目から鱗です。
    最初に記事の分だけ読んで、「全身は魚で魚の頭の下にもう一つ頭があり、魚の尾ひれ部分に人間の足」ってこれ着ぐるみだ、と思ったらシュメールの壁画が本当に着ぐるみで可愛くて笑いました。
    偉い神様だとしても、こんなかわいい神様が陸でぴちぴちしながら知識を教えてくれたら、なんだか申し訳ないのでしっかり勉強する気になりそうです。

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