キリストの洗礼の中世挿絵13点。暗黒時代のイエスの洗礼作品は個性的だった | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

キリストの洗礼の中世挿絵13点。暗黒時代のイエスの洗礼作品は個性的だった

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 キリストの洗礼は、イエスがヨルダン川でヨハネから洗礼を受けたという新約聖書の物語です。
 洗礼は古代イスラエルの時代より続いており、当時の洗礼方法は全身を川に浸すという浸礼(しんれい)を行っていました。中世西洋ではこの物語を「川に浸るキリスト」、「椀で頭に水をかけるヨハネ」、「祝福に来た神の化身である鳩」、「服を持つ天使」等で表現しておりますが、その描写がリアルではありえない、中世ならではの興味深い状態になっているのです。
 独創的な状態で洗礼をするキリスト達の中世挿絵、13点をご覧ください。

 

「デンマークの教会のフレスコ画  1430年頃」
葉っぱの可愛らしい文様の中、キリストがヨハネに洗礼を受けています。
って、ヨルダン川が盛り上がって凄いことになっています!浸礼を
表現する為、しばしばこのような表現となっているのです。面白い・・・。

「アングロ・サクソン系の中世写本
 Benedictional of St Aethelwoldの挿絵  970年頃」
美しい装飾の中、洗礼を行う二人に聖霊と天使達が祝福に来ています。
気になるのは、かめから川を出している老人。ヨルダン川の擬人化?

「パオロ・ヴェネジアーノ作  14世紀」
イタリアのヴェネツィアのフレスコ画。こちらはちゃんと川が水平ですね。
大地とキリストの遠近感があべこべになっていますが、これは中世の
作品の特徴であり、鑑賞者に分かりやすく見せる為の技なのです。

「オットー朝時代の写本Hitda Codex にある挿絵  1025-50年」
急降下している鳩さんや、かめを持っているおじさん、水面に立つ
ヨハネも気がかりですが、一番気になるのは川の中の魚たち。
凶悪そうな顔をしていて、噛みつきそうですが大丈夫でしょうか・・・?

「キプロスの教会にある壁画  14世紀」
魚がぴちぴちと生息している中、ピンクのパンツをはいた悪魔の
ようなミニチュアおじさんが、キリストに喧嘩を売っているように
見えます・・・。い、一体何者!?サタン・・・なのかな?

「イングランドの中世挿絵  12世紀前半」
6匹の魚を一緒に入れながら、肩まですっぽりとヨルダン川に浸っている
キリスト。まるで水のお洋服をまとっているようです。
左右の天使の表情が病んでいるように見えるのは私だけ・・・?

「イングランドの写本 Arundel の挿絵   13世紀」
こちらも魚INヨルダン川のお洋服。
このポーズ、ボッティチェリのヴィーナスの誕生を思い出してしまい
ました。手の向きとか一緒だぞ・・・。

「フランスの写本カン詩篇の挿絵   1180年」
気になる部分は多々ありますが、キリストがO脚すぎて気になり
すぎます・・・。せめて、せめて恥じらいを・・・!

「作者不明   1386年」
な、なんかもう現代芸術のような気がしてきた・・・!
なかなか描こうとして描けるような絵ではありません。ヨハネの顔や
髪形がいい味を出しております・・・。

「ドイツの有色木版版画  1490年」
ルネサンス時代に入ると、浸礼ではなく灌水礼(頭部に頭を注ぐ)となり、
キリストは腰布を巻くようになります。風景も結構遠近感が生まれて・・・
って、ヨハネの足元に未知なる生命体が!?ミニ羊さん!?

「フランスの本Breviaryの挿絵   1511年」
真剣な表情で黒い物体を頭に垂らすヨハネさん。キリストは
「え、何をかけているの?」と言った表情で、天使は見てみぬふり。
聖霊はびっくりしたような感じです。不明すぎる・・・。

「ケルンの写本 Speculum humanae salvationis の挿絵   1450年」
こちらはちょっと不機嫌そうなキリスト。「目に水が入っちゃったかな、
すまん」とヨハネは言っていそうです。天使のお団子ヘアーが現代的!

「時祷書の挿絵  15世紀後半~16世紀前半?」
鮮やかな彩色で、落ち着いた様相の美しい挿絵。管
理人のノリで
今まで変わった感じの挿絵を紹介してきましたが、美麗な作品も
沢山あります。

 リアルな描写は許されず、抽象的な表現をせざるを得なかった写生たち。「キリストを入水させたらヨハネ達も入ってしまうな・・・。よし、水をうねらせてしまおう!」とか「水だけでは川だと分からないかな。よし、魚も入れよう!」とか考え、彼らなりに色々な工夫があり、様式化していったのではないでしょうか。
 あと、川を出す精霊(?)や悪魔が描き込まれたのも面白いですね。伝承を信じていた、中世の人々の思想が分かります。絵画は作者の意図や工夫が感じられるものが多いですが、それは中世挿絵も同様ですね。

→ ルネサンス時代のキリストの洗礼についての絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> びるね様へ
    こんばんは。
    確かに盛り上がった感じと線が、モンブランそっくりですね。
    私も今日からモンブランと呼びたいと思います!
    ブログを拝見させていただきました。
    川の表現は時代だけではなく、地域によっても異なるのですね。
    様々な地域の洗礼図の比較があり、興味深かったです。
    シェ・シーマのモンブラン美味しそうです…^^

  2. びるね より:

    キリストの洗礼、ヨルダン川の独特な盛り上がりを「モンブラン」と名付けました。
    とびきり変わった洗礼図をチロルの山奥で見たことがあります。
    http://stundenbirne.jugem.jp/?search=%A5%E2%A5%F3%A5%D6%A5%E9%A5%F3&x=0&y=0

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