シャロットの乙女は、愛の為に外へ出たものの呪いによって命を落とした悲劇の物語です。
19世紀の詩人アルフレッド・テニスンの詩によると、シャロット姫は外の世界を直に見ると死ぬという呪いがかけられていました。外は鏡を通してでしか見られず、彼女は毎日室内で織物をしていました。そんな生活に飽き飽きしていたある日、シャロットは歌声を聞きます。声に惹かれ、つい彼女は外を覗いてしまったのでした。川のほとりにいたのは、イケメン騎士ランスロット卿。その時、呪いは発動し、鏡は割れ、織物は飛び散って糸がからまってきました。シャロットは苦しみながらもランスロット卿を追って、船に乗って岸を目指しました。しかし、対岸のキャメロット城についた時には、彼女はこと切れていたのでした。
この物語は「アーサー王物語」のアストラットのエレインの影響があるとされています。
ランスロット卿と出会い恋に落ちるエレイン。彼は身分を隠して槍試合に参加しようとしていた為、エレインは兄の武具を貸します。その時に「愛の印として赤いスカーフを付けてください」と頼み、彼は変装するには丁度いいと思って付けることにしました。試合で瀕死の重傷を負ってしまったランスロット卿をエレインは看護し、愛は結ばれるかと思いきや。傷が癒えたランスロット卿はエレインを捨て、宮廷へと帰ってしまったのでした。悲しみに暮れたエレインは恋煩いで衰弱し、息絶えてしまいます。エレインの遺骸は悲恋を書いた手紙を持ち、小船に乗ってキャメロットの対岸へと流されたのでした。アーサー王や円卓の騎士らは彼女を発見して涙を流したのでした。
では、シャロットの乙女とアストラットのエレインについての絵画13点をご覧ください。
「シドニー・メトヤード作 1913年」
シャロット姫は外を直接見たら死ぬという呪いがかかっていました。
窓があっても覗くのはNG。鏡と機織りだけが生活の全てでした。
鏡にカップルが映り、いちゃついているのを見て彼女は呟きます。
「もう、影のような生活には疲れたわ」と。
「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1915年」
こちらも「影のような生活には疲れた」と感じるシャロットさん。
こちらは生活に倦んでいるというより、外に憎しみすら覚えて
いるように思えます。ずっと機織していたらそうなりますよね・・・。
「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1894年」
ある日、シャロットは男性の歌声を聴きます。気になった彼女はつ
い窓から覗いてしまったのでした。
川のほとりにいたのは円卓の騎士の一人ランスロット卿。
「ウィリアム・マウ・エグリー作 1858年」
シャロットはたちまちイケメンの彼に惹かれたものの、
無情にも呪いが発動してしまいます。命はあとわずかです。
後ろの窓にランスロット卿がいる!と思ったら鏡なのかな?
「ウィリアム・ホルマン・ハント作 1905年」
こちらも呪いが発動してしまったシャロットさん。
外にはランスロット卿がおり、糸が襲ってくるがごとくからまって
います。それにしても髪の毛がもっふもふ・・・!
「アーサー・ヒューズ作 1873年」
シャロットは慌てて外出し、小船に乗ってランスロット卿が住まう
キャメロット城がある対岸を目指します。しかし、彼女は途中で
命が尽きてしまったのでした・・・。白鳥が寄りそっておりますね。
「ウォルター・クレイン作 1862年」
こちらは静かに息を引き取るシャロット姫。何故そんな呪いが
掛けられたかは分かりませんが、これは「女性は家にいなければ
ならない」という男尊女卑的なしきたりが関係していそうです。
「G. E. Robertson 作 1864-1911年」
対岸の街に着いたものの、既に事切れていたシャロット姫。
たった一人で小舟に乗った美女が亡くなっていたとか、発見した
住民は大パニックですよね・・・;
「ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス作 1888年」
シャロットの乙女の作品を三枚描いているウォーターハウス。
最も有名な作品ですが、意外にもこれが一番古いのですね。
シャロットは自らの運命を悲しみつつ、一縷の望みに縋って
小船を走らせ始めたようですね・・・。
「ジョン・アトキンソン・グリムシャウ作 1836-1893年」
この作品はシャロットの乙女とも、アストラットのエレインとも紹介
されていました。頭の下を見ると百合が置かれており、エレインは
「百合の乙女」という表記がある為にエレインなのかなと思います。
ランスロット卿に裏切られた彼女は悲恋の末に川にたゆたう・・・。
「ブリトン・リヴィエール作 1840-1920年」
従者と思われる男性がいたわしげに見つめています。
手元には手紙と百合の花が。
天蓋付きの船なので、突然の雨にも安心ですね。
「ソフィー・アンダーソン作 1823-1903年」
こちらも立派な布に包まれ、百合を持ってエレインは永遠の
眠りについています。櫂を持つ老人は悲しみのあまりうなだれて
いるようです。
「ポリー・クラーク作 1864-1917年」
対岸のキャメロットへ着いたエレイン。彼女の死の真相を知った
アーサー王や円卓の騎士らは深く悲しんだのでした。
シャロットの乙女は「ランスロット卿を追いかけたが、呪いにより命が果てる」というファンタジーな感じになっていますが、アストラットのエレインは「ランスロット卿に置いて行かれ、失恋の末に命が果てる」という男女のすれ違い感がありますね。ランスロット卿にも色々と都合があったかもしれませんが、その気がないなら赤いスカーフつけずに、最初からお断りしようよ。思わせぶりにするからエレインさんの絶望が深くなっちゃったんだよ・・・。と個人的には思ってしまいます。
男性に冷たくされたが故に、悲しみの末に狂気に陥り命を落としてしまうと言えば、「ハムレット」のオフィーリアが思い浮かびますね。オフィーリアは狂気故に足を滑らせ、溺死してしまうのですが、水辺でゆっくりと亡骸が流れていく場面は、アストラットのエレインに通ずるものがあります。
もしかしたら、シェイクスピアはアーサー王伝説を参考にしていたのかもしれませんね。(あるいは、ゲルマン系民族(ケルトもかしら?)は水葬(船葬)をしていたので、その関連性によるものかもしれません)
【 コメント 】
>> kb様へ
こんばんは^^
騎士道物語は女性とのいざこざが多い気がしますよね。
名誉や任務を優先して女性を振ってしまう割に、不倫して組織や国を傾かせる。
平和的に愛し合ってくれませんw
正直に言って私もランスロット卿は好みではありません^^;
女性問題とアーサー王への裏切りの印象が強くて…。
西洋は名誉を重んじ誇り高く、だがいざとなったら破滅も辞さない。という男性が好みなのかしら…?
噂によると、ハリウッドスターは人気を高める為(話題性を増す為)に定期的にスキャンダルを起こし、「そろそろ問題を起こした方が良いよ」と助言するアドバイザーがいるとか…。
また、少し観点は外れますが、「カルチェ・ラタン」という16世紀のフランスを舞台にした歴史小説がありまして、そこで女たらしのイケメン修道士が登場し、彼は「自分は全てを愛す博愛だから、寂しがる全ての女性を慰め、相手をしてあげなければならない」というような事を明言していました。
その理屈に「なるほど…そういう考え方があるのか…」と変に納得してしまいました(笑)
もしかしたらそういう思想も西洋には根付いているのかもしれませんね。
こんにちは
知勇兼備で大人気のランスロットですが、女性とのいざこざが多い気がして個人的にはあまり好きじゃないですw
フランスやイギリスの方々はこういう男性が好きなんでしょうか
>> 季節風様へ
こんばんは^^
完全に閉じ込められているなら諦めが付きますが、鏡で現実世界が知れたり、窓から外を覗いたりできるなんて残酷ですよね。
破滅が待っていたとしても、室内でくすぶり続けているより、勇気を出して外に飛び出した方が彼女にとって幸せだったのかもしれません。
ランスロット卿に裏切られた分、エレインさんの方が心理的に辛かったような気がします…。
ウォーターハウスの女性はTHE・美女っ!という感じですよね^^
こんばんは。
シャロット姫は幽閉生活に耐えきれずやっと素敵な男性に巡り合え一か八か外へ出たらやはり強力な呪いで命を落としてしまう、可哀想すぎます。エレインさんも可哀想です。ランスロッ卿トはどういうつもりなんでしょう。
ウォーターハウス作の美女は現代なら凄くモテモテの顔だと思います。魅力的ですね。
>> オバタケイコ様へ
こんばんは^^
ウォーターハウスの作品は影があり魅力的な女性が多いですよね。
一度見たら忘れられない印象深い作品が多いです。
この絵画の影響でシャロットの乙女の物語を知ったほどです。
最初「船に乗っているから、冥界へ向かうプシュケーなのかしら」と思ってしまいました…^^;
冒頭のウォーターハウス作の、黒い船の上で悲嘆にくれるシャロットを初めて見た時衝撃を受けました。あまりの悲壮感と美しさに釘付けでした。一度fbの背景に使ったほどです。ウォーターハウスは女性の心情を描くのが上手いですね。女性が本当に美しくて色っぽい💗💗💗