サウルとヨナタンの絵画13点。ダヴィデを憎悪した王と、親友となった心優しき王子 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

サウルとヨナタンの絵画13点。ダヴィデを憎悪した王と、親友となった心優しき王子

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 旧約聖書の「サムエル記」に登場するサウルとヨナタンは、紀元前10世紀頃に生きたとされるイスラエル王国の初代の王と王子です。
 預言者サムエルがイスラエルの民を率いていた頃、王が欲しいという声が民から上がりました。サムエルは神の指示を頼りに王を探し、サウルを選びました。民は王となったサウルを歓迎し、彼は息子ヨナタンと部下達と共に国を守る為に懸命に戦いました。しかし、「アマレク人にまつわる者全て滅ぼせ」という神の指示に従わなかったので、神はサウルから離れ、サムエルはエッサイの子ダヴィデを次の導き手と決め、彼の頭に油を注ぎました。

 ダヴィデは敵将ゴリアテを討ち取って有名となり、神に見放されたサウルは王位に執着し出します。しかし、実直な息子ヨナタンはダヴィデの親友となり、義兄弟の契りを交わしました。竪琴の名手であるダヴィデはサウルを癒そうと音楽を奏でますが、サウルは嫉妬に狂って彼を殺そうと槍を投げ付けます。対するダヴィデは何度もサウルを殺める機会はありましたが、決して実行しませんでした。サウルは苦悩しながらも、嫉妬に燃える日々を送っていました。

 ペリシテ人が行軍してきた際、サウルは神の預言を得たくてもサムエルが他界していた為、降霊ができる魔女にサムエルの霊を呼び寄せさせました。サムエルは「イスラエルの軍勢はペリシテ人の手に渡る」と言い残します。サウルとヨナタンは懸命にペリシテ軍と戦いましたが、ギルボア山で追い詰められてヨナタンは戦死し、サウルは剣を立てて自ら倒れ込んで命を絶ちました。二人の遺体はペリシテ人に奪われてさらし者にされてしまいましたが、取り戻され、後に王となったダヴィデによって丁重に墓に葬られたそうです。
 では、サウルとヨナタンにまつわる絵画13点をご覧ください。

「ジョン・シングルトン・コプリー作  1798年」
神に選ばれし青年サウル。しかし、彼は神の命令に従わなかった為、
見放されてしまいます。預言者サムエルが「お前はリストラじゃー!」
と宣言していますね。可哀想かも・・・。

「Bernardo cavallino 作  1625-50年」
それでもサウルはイスラエル王であり続けます。神に選ばれた次なる
者は少年ダヴィデ。将軍ゴリアテを倒して人気絶頂のダヴィデに
サウルは嫉妬し、音楽を奏でるダヴィデに向って槍を投げ付けます。

「ジェームズ・ティソ作  1896-1902年」
しかし、ダヴィデとサウルの息子ヨナタンは親友の仲でした。
その中の良さは尋常ではなく、ボーイズラヴの領域ではないかと
囁かれるほど・・・。確かに読んでみたらそんな感じでした^^;

「フレデリック・レイトン作  1868年」
少年ダヴィデとイケメン青年ヨナタンのツーショット。これだけで
危険な匂いがしますが、あくまでも二人は義兄弟になる程の親友です。
父サウルが暴走しているので、ヨナタンは親友を逃がします。

「ジェームズ・ティソ作  1836-1902年」
「ダヴィデが王位を狙っている」という強迫観念に縛られている父に、
ヨナタンは「彼はそんな事を考えていない」と主張しますが、サウルは
怒って息子にまで凶器を向けてしまいます。

「ニコライ・ゲー作  1875年」
ペリシテ人が攻めて来た際、サウルは神の預言を得る為に降霊師の
魔女に頼み、サムエルの霊を呼び寄せます。この時既にサムエルは
他界していました。

「Nikiforovich Dmitry Martynov 作  1857年」
赤い衣をまとうサウルの元へ、どろどろ~と現れる白い着衣の
サムエルの霊。彼は「神はイスラエルの軍勢をペリシテの手に渡す」と
預言しました。それは即ち敗北を意味していました。

「ベンジャミン・ウエスト作  1738-1820年」
床にひれ伏すサウル。彼は一度神に選ばれた身であり、自身の
ダヴィデに対する嫉妬を自覚している面もありました。王としての
責務も行っており、決して悪王ではありません。ただ、王位に目が
くらみ、神を裏切ってしまったのでした・・・。

「ワシントン・オールストン作  1779-1843年」
降霊師の魔女がかなり強そうですね^^; サウル以上の貫禄を醸し
出しています。「きゃー!」と可愛く驚く背後の兵隊さん達。

「マティアス・ストーム作  1635年」
暗闇の中に浮かび上がる人々の姿。バロックの暗黒主義の人が
このテーマを描くとこんな感じになるんですね。
サムエルさん、霊なのにかなり現実味があります。

「Bernardo Cavallino 作  1650-56年」
サウルの身のこなし、サムエルのポーズなどが劇的で個人的に
好きな作品。ただ、こちらもサムエルの霊がかなり具現化して
しまっているようです。影もあるし・・・。このまま復活したのかも?←ぇ

「ピーテル・ブリューゲル(父)作  1562年」
ペリシテに果敢にも立ち向かったサウルとヨナタン。しかし、二人は
ギルボア山で追い詰められ、ヨナタンを含む息子達は戦死し、
サウルは剣を縦にして自ら刺して自害してしまったのでした・・・。
サムエルの預言は正しかったのです。

「左側アップ」
ブリューゲルが描いた緻密な戦争画の中にひっそりと描かれた
サウルとヨナタンの死。凄く悲壮感が漂っています・・・。
Pieter Bruegel the Elder - The Suicide of Saul 1562 -

「Elie Marcuse 作  1848年」
凄く劇的に描かれたサウルとヨナタンの死。上の三人は二人の
遺体を懸命に回収したというヤベシ・ギレアデの勇士達なのかな?
その後、サウルの四男が王位を継ぎ、彼が暗殺された後に
ダヴィデがイスラエルの王となったのでした。

 サウルのように権力に目がくらみ、王位の欲望が泥沼と化してしまう者が多い中で、正当な後継者であるヨナタンは権力の欲望に負けず、親友をずっと信じ、神に仕えた王子としての使命を全うしました。私はこの話を原書ではなく漫画で読んだのですが、ヨナタンの切実さ、実直さに心を討たれました。こんな素敵な親友がいるダヴィデが羨ましいです。
 ヨナタンの死後、ダヴィデは深く嘆き悲しみ、彼の息子であり足が不自由であるメピボセテをずっと支援していたそうです。ヨナタンとダヴィデの二人が国を治めたら、もしかしたらイスラエルは平和だったのではないかなぁ~と思ってしまいます。

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> ゾウ様へ
    こんばんは^^
    ブログをご覧くださり、こちらこそありがとうございます。
    もしよろしければ様々な物語の絵画をいくつも紹介しておりますので、お時間あるときにまたご訪問くださいませ!

  2. ゾウ より:

    これだけ素晴らしい中世の絵画、特に聖書に関する絵画ははじめて見ました。
    感謝いたします。

  3. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    皆から期待され王に選ばれて懸命に国の為に戦ったのに、一つの事に従わなかったばかりに「お前は王ではない」と切り捨てられる。
    心を病み、王位に固執してしまうのも分かるような気がします。
    サムエルの預言とダヴィデ自体が、サウルにとって現実に認めたくない存在であったのでしょう。
    権力に溺れて王位を守る余りに周囲を排そうとする者は、歴史上でも沢山いますよね。
    ローマ時代なんか毒殺だらけですし。家族間で陰謀やりますし^^;
    現代でも充分にありえそうなお話ですよね。
    ただ、サウルは「神」という見えない存在によって狂わされてしまったと言えそうです…。

  4. 美術を愛する人 より:

    聖書はいろいろ脚色も入ってそうですが、このお話を読み返すと晩年サウルの行動には妙な現実味と生々しさを感じてしまって、何か心の病を患っていたのかもと思うことがあります。そこにサムエルにダメ出しされて悪化したのでは…
    そう見ると現代でもありえそうな家族の悲劇に感じられてひどく痛々しい。
    聖書に神も仏もないような話がちょいちょいあるのは皮肉めいて思えます。

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