老人と美女の絵画13点。金品と欲望の皮肉に満ちた、フランドルで流行した絵画主題 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

老人と美女の絵画13点。金品と欲望の皮肉に満ちた、フランドルで流行した絵画主題

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 年の差婚。現代でもあまりにも年の離れたカップルは話題となり、様々な詮索を受ける対象となりがちですね。
 当時の西洋では、現代以上に年の差婚が行われておりました。純粋な恋愛による年の差婚はあまりおらず、国政や貴族の血統の権力によるものだったり、金品や美貌、名誉の為だったりと、欲望が渦巻いていました。
 老人と若い女(不釣り合いなカップル)という主題は古く、古代ローマの喜劇にも存在するとされていますが、16世紀頃のフランドルやドイツの画家達は、その主題を復活させて皮肉を込めた作品として描きました。老人は欲望がこもった目で娘を見て抱き寄せ、娘はお金や宝石を握ってほくそ笑んでいるというのが一般的に多いですが、娘が嫌がっていたり、逆に若い男と老婆という主題も見られます。
 では、老人と若い娘の絵画13点をご覧ください。

 

「ルーカス・クラナッハ(父)作  1472-1553年」
いやーらしーい顔をした老人と、目が完全に死んでいる女性。
老人はもふもふの毛皮を着ているので権力者だと思われますが、
女性にとっては望んでいない結婚のようですね。

「ルーカス・クラナッハ(父)作  1530年」
お嬢ちゃん、ネックレスをあげるからおじさんの所へ来なさい。
うふふ、ありがとう。おじさんのお髭がもふもふ~♪
と、この二人は異なる欲によって結婚が成立しているようですね・・・。

「ルーカス・クラナッハ(父)作  1472-1553年」
クラナッハ(父)の工房は「量産型」であったようで、同様の主題を
大量に描いています。この主題も実に33点もの作品が残っている
とか。いっぱい描きましたね^^;

「クエンティン・マサイス作  1520-25年」
互いに見つめ合って微笑み合う不釣り合いなカップル。
ただ、背後から老人の財布に手を伸ばしている道化師が・・・。
「金で女性を釣るのは愚か者」という皮肉が籠っているのでしょうか。

「ヘンドリック・ホルツィウス作  1558-1617年」
急接近している老人と豊満な女性。こちらも権力とお金によって
成り立っている結婚のようですね。

「ヤコポ・デ・バルバリ作  1450-1516年」
イタリアの画家。彼はフランドルの宮廷を旅した経験があるようで、
その時にこの主題を知ったかもしれません。アガペ―に扮した女性が
老人にすり寄られ、死んだ目をしています。アガペーはキリスト教では
「無限の愛」、古代ローマでは「自己犠牲的な愛」を意味しています。

「ジョヴァンニ・カリアーニ作  1490-1547年」
こちらもイタリア出身の画家。フランドル作品に比べて紳士に見える
老人が、ふくよかな女性を口説いているようです。と、思ったら
テーブルには金貨が。やっぱり金の力なのね。

「ドイツの画家作  17世紀」
こちらは他とは異なり、女性は金を積んだ老人からのアプローチを
拒否し、「私、おいぼれは嫌よ」と若いイケメンの男性を選んでいます。 
老人の元には既に死神が迎えに来ており、先が長くないことを
物語っています。金よりも愛を選ぶ人もいるのです。

「ダヴィド・ヴィンケボーンス作  1620年」
こちらの女性はアプローチしてくる老人に対して、戸惑いを感じて
いるようです。老人の背後に怪物や矢をつがえる死神が潜んでおり、
女性は短い蝋燭を指さして老人の先が長くないことを伝えています。
左にいる人物は、愛に破れてしまった女性の恋人でしょうか?

「ダフィット・テニールス (子)作  1610-90年」
鍋を洗っている女性に対してちょっかいを掛けている老人。
右上の女性が彼の妻だとすると浮気なので、更にマズい状態です。
若い女性は物凄く迷惑そうな感じで見ていますね^^;

「ダフィット・テニールス (子)作  1635年」
テニールスさん二枚目。ぱっと見、「貧しいし、年の差は離れて
いるけど、幸せにやろうぜ」みたいな雰囲気ですが、細部を見ると
何かが違います。左側の人物も怪しいけど、右上の窓に何かがいる!

「ヤン・ステーン作   1665年」
懸命にキザな格好をして女性を口説こうとしている、禿頭の男性。
女性や男性は面白そうに見つめていますが、母親のような女性は
真顔で「こんな奴に娘はやれないね」と思っているかのよう。

「ルーカス・クラナッハ(父)作  1520-22年」
最後にもう一度クラナッハがやってきました。彼は老婆と若い男性
という反対の不釣り合いなカップルも描いています。多大な財産を
受け継いだ寡婦が若い男性と結婚し、男性はその金と権力で
のし上がろうとする・・・みたいな感じでしょうか。

 父親以上に年齢の離れた貴族の元へ嫁ぐことになった少女。幼馴染である少年は「あいつの元へ行ってはいけない。僕と逃げよう。お金はないけど、懸命に働くから。何処かでひっそりと暮らそう」と手を差し伸べます。少女は迷います。さぁ、少女は少年の手を取って愛の逃避行をするのでしょうか。
 現代ではベタと化していると思われるこの展開。しかし、当時の西洋では往々にしてあったことのように思います。「ええ、貴方と一緒に生きる!」と少年との愛を選んだ少女も、「いいえ、見つかったら貴方は殺されてしまう。私は貴族についていく」と言った少女も、「いいえ。私はお金が欲しいから貴族の元へ行くの」と断言した少女もいたことでしょう。
 ベタな展開はさておき、お金や権力が目当てで結婚するという事は、現代でもあり得る事だと思います。若い女性を愛す老人もみえます。この不釣り合いなカップルを批判したり皮肉に思う気は全くありませんが、この主題は永遠に廃れないもののように私は感じます。

 

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【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    若妻を娶ったお爺さんが嬉しさのあまり肖像画を注文したパターンも中にはあると思いますが、この「老人と美女(不釣り合いなカップル)」という主題は、若い女性を愛す老人、金銭主義の女性を皮肉る目的として描かれている場合が多く、「欲望の為に不釣り合いな関係を築いてはならない」という意味が込められています。
    注文した人は、おそらくそういった欲望を戒める為だったのだと思われます。
    (もしくはそのような貴族を批判し、風刺する手段)
    ま、まさか若い男性は介護ボランティアの為にやって来たとは!?
    それにしてもお金を手に取り、冷たい目をしていっしゃる…^^;

  2. 季節風 より:

    この御爺さん達はとても若い妻を娶って嬉しくて肖像画を注文したのでしょうか。でも大枚をはたくならもっと美化してもらえば良かったのにと思います。ですが何百年も経った後世の私たちにとっては為になるかもしれませんね。
    どれも見事な作品だと思います。最後のルーカス・クラナッハ(父)作 の青年は逆にこう思っているのかも。「ボランティアで来てあげただけ。お金は目当てじゃないよ」

  3. 管理人:扉園 より:

     >> オバタケイコ様へ
    クラナッハは宗教改革の最中にプロテスタントを支持していたそうです。
    (ルターの肖像画をクラナッハは描いています)
    プロテスタントはカトリックの華美さや金銭主義を批判し、「聖書に書いてある事のみを信じる」という姿勢なので、クラナッハは人間の欲望を特に批判していたように思います。
    セクシー画や俗画を大量に描いていますが、それを買う貴族達を内心、皮肉や愚かに感じていたのかもしれませんね。
    凄くちなみにですが、グリューネヴァルトもプロテスタント派だったようです。
    彼は宗教紛争のせいで画家の仕事をクビにされてしまい、貧乏と失意の中でペストにかかって亡くなってしまったそう…。可哀想です(:_;)

  4. オバタケイコ より:

    ルーカス・クラナッハいいですねぇ~( *´艸`)
    画風がとても好きですが、こういう人間のいやらしさを描かせると上手いですね。
    美しい絵を描く人ですが、とても辛辣な画家だったのでしょうね。

  5. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を食する怪人様へ
    あ、離婚済みでしたか。
    「わしゃ妻と離婚して家政婦と結婚するのじゃー!」だと勝手に思っちゃいましたw
    更に泥沼化させるところでした(笑)
    そうですね。盲目のオイディプスは実の娘に手を引かれて各地を転々としたと思います。
    調べてみたら、あの歌舞伎俳優さんが演じるのですね。
    つるっとしているのでイメージが沸きません。
    どんなオイディプスになるのだろうと考えてしまいます…^^;

  6. 美術を食する怪人 より:

    彼=オイディプス
    ……念のため^^;

  7. 美術を食する怪人 より:

    あ、「再婚」という情報を入れ忘れただけでとんでもないことにw
    実の娘とは……、なんだか、今秋かの大物歌舞伎俳優の演ずることになっているオイディプスさんみたいな……
    そういえば彼も年の離れた娘に世話してもらってたなと思ったら、あれは実の娘さん、でしたっけ。
    不釣り合いな欲望を持つもんじゃありませんよ、っていう、一種の戒めですね^^;

  8. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を食する怪人様へ
    こんばんは^^
    「怖い絵」展に来ていたのですね。
    若い女性に手を出すとお金をすられてお終いという皮肉ですかね^^;
    悪魔よりも人間の欲望の方が確かに怖い。
    妻子持ち中年男が若い家政婦に手を出すだけでドロドロなのに、遺産を巡る仁義なき戦いが繰り広げられるとは底なし沼状態ですね…。
    物語のベタと言えば、愛し合った二人が実は腹違いの兄弟であったという展開が多いような。
    (実は巡り巡って、若い家政婦が昔お父ちゃんが遊びで付き合った女性との娘だったというオチとか!?娘は遺産と復讐の為に父親にわざと近付いたものの、兄弟の一人とひそかに心を通じ合わせ…!?)
    嗚呼、人はどこまでも禁断に惹かれるものなのでしょうか。

  9. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    学校の先生が「女の子と付き合うのはロマンがある」と仰ってたんですね。
    そういうものなのかな…なんだか複雑です^^;
    青年×老婆の構成には「反対もあるんだ!」と私も驚きました。
    男女どちらでも老人と結婚して財産や権力を狙い、のし上がろうとするのはどこの時代や国でも同じですね。
    利用されていると自覚があったとしても年配者は若者と結婚したく思い、むしろ権力や財力を振りかざして「若者寄ってこい!」と思っているのかも(笑)
    人間の醜い欲望丸出しで人によっては「エグイ…」と不快を感じる作品かもしれませんが、この時代の歴史的背景や状況、人間模様をを考えながら鑑賞すると、また違った悟り(?)のような感覚になりますよね^^;

  10. 美術を食する怪人 より:

    どうも、ご無沙汰です。
    この主題もまた、「怖い絵」展かなにかで見ました。
    若い女性と男性が戯れていて……そのすきに別の女性(道化だったかな?)が、財布をすっているシーンだったかな。
    ドラマでもありますよね、お父ちゃんが若い家政婦さんと結婚したいと言い出して、それまで父親に見向きもしなかった実子たちが現れて「騙されてるのよ」「遺産は渡さん俺たちのもんだ」「調べたらあの家政婦、前科持ちだったわよ」とか……(そっちも実はほんとの子じゃなかったとか^^;)

  11. 美術を愛する人 より:

    昔学校の先生(おじさん)が「このくらいの歳で若い女の子と付き合うっていうのはロマンがあるよねぇ…」と仰ってたのでそういう需要の絵画かと思ったらシニカルな感じで描かれた作品がテーマだったみたいですね(^^;
    逆に純粋にハッピーな内容の作品もあるのか気になるところです笑
    「お金持ちおじさん×悪女?」のような構図がポピュラーなだけに、一番下の作品は特に興味深いですね。
    男性の野心丸出しの冷たい目!
    19世紀とかのイケメン立身出世系小説の一部分にも見えます^ ^
    男性にしろ女性にしろ、相手は自分そのものよりも自分の財や権威を目当てにされている自覚は有るんですかね??
    自覚有りの上での交際で喜んでいるとしたら…
    ちょっと複雑笑
    そう考えてながら改めて作品全体を見直したりしているとなんともまた違った感覚です笑

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