悪女フリートの絵画9点。地獄へ踏み込み怪物を蹴散らす、フランドル地方の強き女 | メメント・モリ -西洋美術の謎と闇-

悪女フリートの絵画9点。地獄へ踏み込み怪物を蹴散らす、フランドル地方の強き女

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 「悪女フリート」は意地の悪い女や激怒する女などを象徴した、フランドル地方(オランダやベルギー)における諺をもとにして生じた存在です。フリートは恐い女を凝縮して概念化した存在だと思っていただければいいと思います。
 15~6世紀頃のフランドルは男性優位社会ではありましたが、女性も負けてはいませんでした。男性からの抑圧や軽視に猛然と反抗した者もいたのです。男性達はそんな女性に恐れをなし、以下のような諺をつくりました。

「彼女は地獄の前で略奪し、無傷で戻ってくる」、「地獄に行くなら剣を持って行け」、「クッションの上で悪魔を縛る」、「地獄から戦利品を持ち帰ろうとする者は、悪女を連れて来るのがよい」、「女はひとりでも騒々しく、二人で多くのトラブルを、三人寄れば大祭り、四人で喧嘩、五人揃えば軍隊、六人いれば悪魔も戦う武器を知らない」

―wikipediaより

 地獄も悪魔もなんのその。悪魔なんか赤子の如く片手で一ひねり状態ですね^^; フリートの源泉はギリシャ神話の復讐の女神であり、「きちがいグレーテ」や「気狂いメグ」などとも呼ばれています。画家のピーテル・ブリューゲル(父)はそんな「悪女フリート」の風刺絵画を手掛けました。その影響があったのか、後年の画家によって同テーマの作品が数枚描かれております。
 では、悪女フリートについての絵画9点をご覧ください。

 

「ピーテル・ブリューゲル(父)作  1561年」
怪物はびこる地獄の中を、甲冑姿でずんずんと突き進む悪女フリート。
諺の状景や変な怪物が所狭しと描かれています。
構図や怪物はヒエロニムス・ボスの影響がみられます。

「作品のアップ」
脇目も振らずに前を凝視し進むフリート。手にはお鍋やパン、
剣を持っており、生活と攻撃の二面性を兼ね備えています。
向かうところ敵なしです。

「ダフィット・テニールス(子)作  1610-90年」
地獄の入口には番犬ケルベロスや様々な怪物がいるようですが、
怪物達は恐れを成すように壁側へと固まっています。
左側の骨さんが可愛いです。

「ダフィット・テニールス(子)作?  1610-90年」
このシチュエーションは人気があったのか、数枚の同構図の作品
がありました。地獄の前で略奪するって・・・一体何を奪うのだろう。
キノコとか鳥型の怪物とか採取するのかな?←ぇ

「フランドル出身の画家作  17世紀」
「クッションの上で悪魔を縛る」という諺を絵画化したらこうなりました。
顔は一見優しそうなフリートですが、悪魔をぐるぐる巻きにしています。
悪魔onクッションが可愛いぞ・・・!

「アントワープ出身の画家作  17世紀」
悪魔を縛って棒で叩こうとしているフリート。被害者の悪魔は
「助けてー!」と訴えていますが、仲間達は勇気が湧かない模様。
可哀想だぁ・・・。

「ダフィット・リッケール三世作(?)  17世紀」
悪魔を中心にして、何やら左側に女の姿が・・・?それがフリート
なのかは分かりませんでしたが、検索したら出てきたので
掲載してしまいました^^;  恐ろしい女がいると悪魔界で噂を
していた途端に「で、出たー!」となったのかな?w

「ダフィット・リッケール三世作  17世紀」
ほうきを手に持ち、山羊に乗って颯爽と現れるフリート。
サテュロス風の怪物を筆頭に慌てて逃げようとしています。
このフリートさんの威厳がやばすぎる。

「ダフィット・テニールス(子)の追随者作   17世紀」
こちらの悪魔たちは負けじと応戦しているようですね。
フリートも少したじろいでいる様子。悪魔だって頑張ります。

「ダフィット・リッケール三世作  1658年」
でもやっぱりやられてしまう。
ほうきを大きく振りかぶり、お尻をぱっしーん!と叩かれてしまいそう。
悪魔さんたち、逃げるが勝ちだよ!

 私が想像していたより悪女フリートの作品はありませんでした。その地域、時代だけの流行だった為か、後年「宗教に反する作品だ」と宗教改革によって破壊されてしまったのか・・・。もっと荒ぶる悪女フリートと怯える悪魔たちの作品を見たかっただけに残念です。

 絵画以外では、16世紀初頭のヘント(ベルギーの都市)で製造された大砲に、「悪女フリート」の名前が付けられたようです。ブリューゲルの作品は16世紀の中頃なので、その時代辺りで流行っていたことがうかがえます。フリートは悪魔をクッションで縛るだけではなく、砲丸で敵兵をぶっ飛ばすのですね。恐ろしや・・・。

(画像提供元)

 こちらが大砲の悪女フリート。どピンクでいらっしゃる・・・!16世紀の大砲にしては状態がよく綺麗に感じます。悪女フリートの伝説は今の時代にも連綿として受け継がれているのですね^^

→ 地獄についての絵画を見たい方はこちら
→ 中世の悪魔についての絵画を見たい方はこちら
→ ピーテル・ブリューゲル(父)の絵画を見たい方はこちら

 

【 コメント 】

  1. 管理人:扉園 より:

     >> 季節風様へ
    こんばんは^^
    ボスファンの私は、昔ブリューゲル(父)のことを「ボス師匠の手法を真似て、より有名になった画家」として、少しだけ複雑な感情を持っていたのですが、彼の個性や技術力、ボス風の作品を描く経緯などを知るにつれてブリューゲル(父)の事も好きになりました。
    フリート作品の中で彼の作品が突出している感じがありますよね。
    フライパンやお鍋攻撃で、悪魔をこてんぱんにする光景が目に浮かぶようです…^^;

  2. 季節風 より:

    扉園様。
    ブリューゲル父の絵に惹きつけられます。
    確かにヒエロニムス・ボスに似てます。
    戦場を一人で駆け巡る生活感と勇気のある女性。

  3. 管理人:扉園 より:

     >> 肝っ玉かあちゃん地獄へ行く様へ
    こんばんは^^
    「肝っ玉かあちゃん地獄へ行く、の巻き」というサブタイトルがありそうですw
    サザ〇さんなら地獄へ行っても平気そうですが…。彼女はお姉さんですね(笑)
    ファム・ファタール的人物とフリートと共通点もあることはありますが、フリートの方が荒々しいというか物理的な強さがあるように感じます。
    神話や伝説では女傑的といえる存在でも、かつてのフランドルの農民や商人から考えると「収拾がつかない悪女」になってしまうのでしょうね…。
    現代日本においてフリートは「理想的な強き奥様」の一体系である思うと、なんだか面白いです^^

  4. 肝っ玉かあちゃん地獄へ行く より:

    悪女と言うと、サロメとかソクラテスの奥さんとか、フランス革命期に登場する女性たちのような、男性を翻弄して痛め付ける姿をイメージするのですが、このフリートかあちゃんは、悪女というより、女傑という言葉の方がしっくりくるような気がします。
    なんだかんだで円満なご家庭は、奥さんがドッシリしてるような気がします。
    さすがに地獄まで出向いて悪魔を縛る人はいませんが(°∀°)笑

  5. 管理人:扉園 より:

    >> オルペウスの死を描こうとしてるが掲載できるかと悩んでいる人様へ
    こんばんは^^
    八つ裂き&生首のオルペウス、思い切って掲載しちゃいましょう!w
    ケルベロスだけではなく、パン型の甘いお菓子はカロンへの渡し賃ともされている場合があるのですね。
    籠いっぱいにお菓子を持って地獄へ行けば無敵です!
    ファム・ファタールもそうですが、男性の意にそぐわない悪女の概念を具現化させ、芸術に落とし込むのは侮蔑や悪意の念が含まれている部分もありますよね。
    「女性は原初の激しき神秘を有しており、理解不能の存在である」というのが根底に潜んでいそうです。
    ん、もしかしてフリートの概念が進化してファム・ファタールになった可能性も…?←ぇ
    確かに物語があって故事が生まれたのは分かりますが、諺から人格が生まれたというのは不思議ですよね。
    日本で言ったら「見ざる言わざる聞かざる」「さるも木から落ちる」「犬猿の仲」、これらの猿が統合され「やる気のない駄目な猿」として人格を与えられる…ということなのかしら??
    なんか違うかなw^^;

  6. オルペウスの死を描こうとしてるが掲載できるかと悩んでいる人 より:

    ケルベロスにはパンをあげちゃえば怖くないですね^^
    今見るとおもしろい画題だなーと思いますが、当時の男たちの偏見というか、嫌らしい皮肉が垣間見えますね^^;
    クッションとか、もうバカにしてるでしょとしか思えないですw
    でも、諺から生まれるキャラクターっておもしろいですね。故事とかってキャラクターが先のイメージがありますけど。

  7. 管理人:扉園 より:

    >> オバタケイコ様へ
    こんばんは^^
    クッションというところが生活感溢れていてゆるいですよねw
    ステレオタイプ的な偏見ではありますが、日本で考えるとに大阪のおばちゃんのように思えます。
    大阪のおばちゃんが妖怪をまな板とか布団で縛っていたら、同じくらいシュールですね(笑)
    軽々とやっちゃいそうに思えてしまいますし^^;
    強き恐ろしきおばさんは、どこの時代にも国にもいるのでしょう…。

  8. オバタケイコ より:

    ブリューゲルのフリート、まさに向かうところ敵なしですね。フリートの存在知りませんでした。
    なんで悪魔をクッションに縛り付けちゃうのか。。。
    なんだか可笑しくて笑っちゃいました。( *´艸`)
    いつの世も一番強くて怖いのはおばちゃんという事なのでしょうか?

  9. 管理人:扉園 より:

     >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    現代では「鬼嫁」とか「男を手のひらで転がす女」というのは比較的肯定的に捉えられていますが、当時では社会的に認められない存在だったのでしょう。
    頼もしくあらねばならないのは男性の方であり、女性はむしろ控え目でなければなりませんでした。
    宗教的な神聖で悪魔に打ち勝つ聖人ならともかく、腕っぷしで悪魔を倒しかねない強気な女というのは、悪魔と同等であるとみなされていたのかもしれません。
    私達がクッションに悪魔を縛るフリートを見ると、肝っ玉お母さんみたいに見えて心強く感じてしまいますよね(笑)
    悪魔は哀れがしですが…^^;

  10. 管理人:扉園 より:

    >> 美術を愛する人様へ
    こんばんは^^
    今回の記事を書くまで、フリートは個人名だと思っていました。総称であったとは…。
    昔話の「地獄のあばれもの」はじめて知りました。
    面白い物語ですね!
    地獄の刑罰を易々と改造してしまう三人は、途轍もない力の持ち主ですね。
    胃酸を防ぐ薬とか凄すぎるお医者さん(笑)
    はい、ギリシャ神話ではフューリズ、ローマ神話ではフリアエとされる復讐の女神から由来していると思います。
    悪魔さん怯えている感じが可愛いですよね^^
    クッションで縛るのではなく、クッションに包んで持ち帰りたくなっちゃいます(笑)

  11. 美術を愛する人 より:

    悪女フリート、恥ずかしながら知りませんでした。
    悪女っていうわりにはかなり頼もしく感じる作品ばかりですね笑
    ジャイアンのお母さんみたいです笑

  12. 美術を愛する人 より:

    こんばんは。悪女フリートの絵はブリューゲルのものしか見たことがなく、手持ちの画集にも詳しい解説がありませんでした。
    日本昔話の地獄のあばれものみたいな話かと思ってたら違いましたね。
    復讐の女神というとフリアエから出てきた名前なのでしょうか。
    悪魔さんたちがゆるキャラ的にかわいいので、ちょっと連れ帰りたくなる気持ちになるかも。

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