アレクサンドリアの聖カタリナは(287-305年)は「十四救難聖人」に数えられ、イエス・キリストと結婚した聖女とされています。
アルメニア王の娘として生を受けた彼女は、周囲の者から結婚して欲しいと催促されても頑なに拒否していました。カタリナは血筋、富、知恵、容姿いずれにおいても自分より勝る者としか結婚しないと宣言していたのです。かなりの才女で美貌である彼女の要望に応える男性を知る者は誰もおりません。彼女は完璧なる理想の男性を待ち焦がれていました。
そんな折、カタリナの元に隠者アドリアヌスがやってきます。彼は聖母マリアとキリストの使いで、彼女に教えを説きながら砂漠へといざないます。その先には豪華な修道院があり、聖人たちに導かれて聖母の元へ到着しました。カタリナを歓待したマリアは新しい衣服と洗礼を行うよう言い、身を清めた彼女はキリストの御前へと赴きます。マリアが「貴方への愛ゆえに地上の全てを捨てたカタリナが来ております」と告げると、キリストは「妻よ。手を出しなさい」と言い、カタリナの指に聖なる指輪をはめ込んだのでした。(カタリナがキリストと結婚する幻想を見たという説もあります)
この「神秘の結婚」と呼ばれるテーマは人気のある主題だったようで、多くの作品が残されています。様々な年齢のキリストを見比べながら、神秘の結婚についての絵画13点をご覧ください。
「バルナ・ダ・シエナ作 1340年」
キリストから指輪を授けられる聖カタリナ。中世らしい厳粛な雰囲気
ですね。それよりも、足元の絵画が気になります。愛する二人を
祝福する天使に、悪魔をやっつける天使。
そして、悪魔をハンマーで倒すご婦人!?
「Lorenzo Salimbeni 作 1400年」
物凄く怖い雰囲気をたたえた神秘の結婚。赤子姿のキリストは
にんまりと笑っているのですが、カタリナはかなり恐い顔・・・。
緊張、厳粛を表しているのだと思いますが、背景のダークさも相まって、
おどろおどろしい感じになってしまっています・・・。
「Bartolomeo Neroni 作 1505-71年」
聖人達や天使がいっぱいいる中、行われる指輪の譲与。
この作品は大人の姿のキリスト。こちらの方が少数組なんです。
物凄く失礼ですが、この絵画のマリア様を継母にしたら恐そう・・・。←ごめんなさい
「パリス・ボルドーネ作 1500-70年」
神秘の結婚とされていたこの絵画、他の様式とかなり違うようですね。
キリストはカタリナに指輪をあげようとしていますが、彼女はなんと
人差し指を出しています。マリアの夫ヨセフのような人は手を掴み、
マリアは顔を背けてさえいます。皮肉めいた謎多き絵画だ・・・。
「パルミジャニーノ作 1503-40年」
カタリナは刃付きの車輪の拷問にかけられようとしたところ、
祈りの力で車輪が大破したという奇跡がある為、車輪がアトリビュート
となっています。神秘の結婚のシーンまで車輪が登場するのですね。
手前のおじいさんの目元がちょっと寂し気・・・。これもヨセフ?
「Biagio Pupini 作 1511-51年」
こちらのマリアさんもちょっと気の強そうな感じに描かれていますね。
背後にぬっと出てくるおじいさん。やっぱりヨセフのような気がします。
キリストの奥さんが現れて複雑な心境なのでしょうか。
「コレッジオ作 1518年」
疑惑の絵画から一転、とても心が安らぐ美しい作品ですね。
誰もが微笑みを浮かべており、この結婚を画家自体が祝福している
ように見えます。キリストは赤ちゃんではなく、幼児くらいですね。
「パオロ・ヴェロネーゼ作 1528-88年」
物凄く近い!なんか近い!
背後の老婆はマリアの母ハンナかな?ヨセフらしき人物と「最近の
若者はこんな感じなのかい?」と喋っているのでしょうか。
「ソドマ(ジョヴァンニ・アントニオ・バッツィ)作 1539年」
彼はダ・ヴィンチの影響を受けた画家。女性の描き方等はよく似て
いますよね。カタリナの指に指輪をはめる笑顔のキリスト。
おじいさん、こ、怖すぎるお・・・!
「Giacinto gimignani 作 1645-50年」
こちらは天空で行われる神秘の結婚。しゃんと立つ赤子キリストに
指輪を頂いております。首と翼だけの天使はケルビムかセラフィムと
されています。霊体のみの高位の存在を表す為に、このような
様式になったようです。
「ホセ・デ・リベーラ作 1591-1652年」
こちらは指輪の譲与ではなく、カタリナがキリストの手に接吻して
信仰を表しておりますね。テネブリスム(暗黒主義)の様式で描かれた
神秘の結婚は物語のシーンと言うより、舞台のようです。
「Jacopo ligozzi 作 1594年」
結婚の様子を五人の聖人達が「おおー!!」と見に来て、祝福
しているようです。オレンジの人は鍵を持っているので聖ペテロかな?
右の百合を持っている人は聖ドメニクス・・・かな?
後は分かりません^^;
「ピエール・シュブレイラス作 1699-1749年」
左側で厳粛に行われている神秘の結婚。このキリストは大人の
姿ですね。そして気になるのが右側の男性。絶対にこの物語に
登場する人ではありません。作品の依頼者だと思われますが、
何だかキリスト達より目立っちゃっているような・・・。
立派な修道院の中で、聖人や天使に囲まれながら厳粛に行われる、二人の完璧なる男女の結婚・・・。
この絵画モチーフが好まれた理由は、高貴な血筋と高い教養、深い信仰を持つカタリナが、ルネサンス時代の女性の理想像のひとつであった事が言えるそうです。とすれば、これらの絵画は「女性ならこうあるべきですよ」と淑女に伝える為だったのでしょうか。
幾つかの絵画はそのような風体もありますが、そこから外れているちょっと癖のある作品も幾つかありましたね。パリス・ボルドーネさんやパオロ・ヴェロネーゼさんはなんというか、主題に現世的な「ふくみ」を持たせているような気がします。結婚は喜ばしく祝福すべきものですが、その逆に様々な葛藤や制約が生まれます。彼等の様子がなんとなく現代の私たちに通ずるものがあるように感じるのは、私だけでしょうか・・・?
【 コメント 】
>> 季節風様へ
こんばんは^^
イエスは神の子だから妻を持たないという考えや、マグダラのマリアがイエスの妻であるという伝説がある中で、聖カタリナの神秘の結婚の物語は複雑な立場ですよね。
だから赤子時代のイエスを描いた作品が多いのかもしれません。
Jacopoさんの作品、聖カタリナの足元は床ですが、右側のイエスとマリアがいる部分は恐らく雲です。
神の使いである天使が支えとなり、聖人達が天界に浮かんでいる表現であると思います。
カタリナが地上(現実世界)、イエスらは天界(精神世界)にいるという比較で描いたのだと考えられます。
キリストに妻と呼ばれ指輪も授かるという完璧な最高の女性の聖なる結婚式があったなんて。このモチーフが人気があったというのも分かる気がします。
「Jacopo ligozzi 作 1594年」の首と翼だけの天使が気になります。恐れ多いですが床(地面?)に転がってるのは初めて見ました。空に浮かんでいてもインパクト大ですが。