法悦(ほうえつ)は、宗教の教えを聞いたり、信仰することで心に喜びを感じることです。陶酔感や恍惚感をもたらすこともあります。
天使やイエス・キリストの幻視に遭遇した際、何名かの聖人は法悦を体験したとされています。代表的なのは聖テレジアという聖女の法悦。彼女は天使と出会い、以下のような体験をしたそうです。
私は黄金の槍を手にする天使の姿を見た。穂先が燃えているように見えるその槍は、私の胸元を狙っており、次の瞬間槍が私の身体を貫き通したかのようだった。天使が槍を引き抜いた、あるいは引き抜いたかのように感じられたときに、私は神の大いなる愛による激しい炎に包まれた。
私の苦痛はこの上もなく、その場にうずくまってうめき声を上げるほどだった。この苦痛は耐えがたかったが、それ以上に甘美感のほうが勝っており、止めて欲しいとは思わなかった。
私の魂はまさしく神そのもので満たされていたからである。感じている苦痛は肉体的なものではなく精神的なものだった。愛情にあふれた愛撫はとても心地よく、そのときの私の魂はまさしく神とともにあった。この素晴らしい体験をもたらしてくれた神の恩寵に対して、私はひざまずいて祈りを捧げた。―Wikipediaより抜粋
このシーンは神聖なるテーマでありながら、どこか性的な要素と結びついているように感じられたのか、敬虔な宗教画というよりも、セクシュアルな雰囲気をかもしだしている絵画も中には存在します。聖テレジアの他にも、コルトナの聖マルガリタ、シエナの聖カタリナ、アッシジの聖フランチェスコ、アルカンタラの聖ペドロ、マグダラのマリアなどの法悦の場面が絵画で描かれています。
では、聖人の法悦についての絵画14点をご覧ください。
「ジョヴァンニ・ランフランコ作 1622年」
コルトナの聖マルガリタの法悦。
13世紀のイタリア出身の彼女は、着飾ったり城主と関係を持ったりと
罪深き女性でした。城主の惨殺事件を機に彼女は改心し、
信仰深き聖女となったのでした。イエスの出現に呆然としていますね。
「ソドマ作 1530-5年」
シエナの聖カタリナの法悦。
7歳の時にイエスの夢を見て、修道の道へ入る事を決意。
それから祈りや瞑想、断食などの行為を続け、布教に励みます。
彼女はたびたび幻視して法悦状態になっていたそうです。
「ジェラルド・セーヘルス作 1609-51年」
聖テレジアの法悦。
長い槍を握った天使が飛来してきて、彼女の胸に打ち込もうと
しています。大いなる神の存在に触れた彼女は苦痛と恍惚の
狭間で、静かに法悦を体験しているようですね。
「ベルナルド・ストロッツィ作 17世紀」
聖テレジアの法悦。こちらのテレジアさんは結構痛そうな
顔をしていますね^^; 槍も精神的というよりも、ぐさっと突き刺さり
そうです。槍で刺されたという事は、イエスの磔刑の追体験という
感じなのかもしれません。
「Giuseppe Bazzani 作 1690-1769年」
聖テレジアと天使をアップにして、静謐だけれど劇的なシーンを
生み出しています。天使のお胸がセクシーすぎるような・・・。
法悦という意図以上が込められているように感じるのは、
私の心が穢れているからなのだろうか・・・。
「ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ作 1682-1754年」
こちらも聖テレジアの法悦。先ほどの表情とは打って変わり、
槍で刺された体験をしたとは思えない程の穏やかな表情を
していますね。まるで眠っているようです。
「ジョヴァンニ・バッティスタ・ピアッツェッタ作 1729年」
アッシジの聖フランチェスコの法悦。聖テレジアの次に法悦の絵画が
多いのは、恐らく彼ではないでしょうか。裕福な商人の息子として
生まれた彼は、お金を使いまくって気前よく遊んでいましたが、
幻視や大病を体験し、敬虔なキリスト教徒となりました。
「カルロ・サラチェーニ作 1579-1620年」
アッシジの聖フランチェスコの法悦。
彼がアルヴェルナ山で隠遁生活をしていると、突如天使が現れ、
法悦状態となったという場面。天使さんは楽器を奏でておりますね。
「ジョヴァンニ・バリオーネ作 1566-1643年」
こちらもアッシジの聖フランチェスコの法悦。
彼は清貧・純潔・服従を基盤とするフランチェスコ修道会の創始者
でもあります。こちらの天使さんは立派な体格をしております。
「フアン・デ・バルデス・レアル作 1622-90年」
またもやアッシジの聖フランチェスコの法悦。喜びの体験という
よりも、苦しい修行の中でふらふらになった彼を天使が助けに
来たという感じにも見えますね。バックの天使さんが何気に恐い。
「Pier Francesco Mazzucchelli の追随者作 1573-1626年」
またまたアッシジの聖フランチェスコの法悦。
大人の天使ではなく、可愛らしい天使さんが優しい音楽を奏でに
来てくれています。天使さんがキックしているように見えるのは、
私の心が穢れているからですね。きっと。
「クロード・フランソワ作 1614-85年」
アルカンタラの聖ペドロの法悦。大学を出てフランシスコ修道士
となった彼は、積極的に説教を行い、布教に励みました。
彼も祈りや熟考の際に法悦の状態になっていたそうで、
天使によって天空へと持ち上げられる絵画が描かれています。
「アルテミジア・ジェンティレスキ作 1593-1653年」
マグダラのマリアの法悦。
イエス・キリストに最期まで付き従ったとされる女性マリア。
白い肩を露出させた彼女の顔は上を向き、涙をこらえている
ようであり、何かを受け入れているようでもありますね。
「アレサンドロ・ロッシ作 1627-96年」
マグダラのマリアの法悦。
病弱な様子でうなだれる彼女の元へ現れる天使。心配そうに
見つめる天使の手にはなにやらお薬(?)のような物が握られて
いますね。頭に塗るのかしら・・・?←ぇ
法悦は哀しみや苦痛、愛や歓喜、恐れや慈しみが入り混じった複雑な感情。体験した聖人にも様々な幻視や供述があるので、法悦の絵画も様々です。
聖テレジアの法悦で最も有名な作品は、おそらくジャン・ロレンツォ・ベルニーニが手掛けた彫刻作品なのではないでしょうか。法悦に浸るテレジアに現れる天使は微笑み、優しく槍を向ける。布や肌の質感が余りにも柔らかくリアルで、本当に大理石で彫ったの!?と目を疑いたくなるような作品です。作品を見たい方は以下にリンクを載せるので、覗いてみてください^^
あと、法悦と言えばカラヴァッジョの描いた「マグダラのマリアの法悦」もありますね。2019年―2020に開催される「カラヴァッジョ展」に日本初出展される作品です。この作品も宗教的というよりも、問題視されるような雰囲気が醸し出されており、作品を巡って一波乱があったように思います。アルテミジア・ジェンティレスキの作品もカラヴァッジョの影響が見て取れるように感じますね。こちらの作品も以下リンクからどうぞ^^
→ ベルニーニ作聖テレジアの法悦を見たい方はこちら<wiki>
→ マグダラのマリアが出展されるカラヴァッジョ展についてはこちら
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